くしゅん、

大きい音ではないけれど小さい音でもない。そしてちょっときたない。わたしはずる、と鼻をならした。

春になるとわたしみたいに小さい小さい粉に攻撃される人間がでてくる。もちろん打ち勝てない。


ギイ、と椅子が啼いた。


「くしゃみと鼻の音うるさい、下唇と上唇縫い付けるよ」

「そのお言葉、そっくりそのままいつものあなたにお返ししますよ臨也さん」

「できるならやってみればいい」


ふい、とそっぽを向いた臨也さんは目で羽虫を追いながらつまらなそうにため息を吐いていた。

この雰囲気が世間一般でいう倦怠期、というものらしい。

ただし、わたしと臨也さんは世間一般のカップルではないためそんなことはないのだ。


臨也さんの仕事は精神的疲労を伴うもの。臨也さんはきっと気付いていないけれど無意識の間に溜め込んでしまっている。

わたしは隣にいるだけ。

それでいい。わたしと臨也さんの恋愛はそれでいい。

甘い言葉を囁かれるよりも、饒舌なおしゃべりで翻弄されるよりも、臨也さんがわたしの前だけでしゃべらないこの雰囲気が好き。


「あ、キスでくしゃみしそうな口を塞ぐとかしないでね。鼻つまってるから呼吸困難になってしぬと思う」

「…君に対して誰がそんなことするのか教えて欲しいね」

「ねえ、お願いだから空気清浄器買ってよダーリン」

「ダーリンて」

「因みに4万円以下のやつでいいからね」


金遣いが荒くて、わたしの口をキスで塞ごうと企んでいて、ギイギイと椅子を軋ませる(わたしの鼻の音よりはるかにうるさいと思うんだ)のが趣味な臨也さんに言うと、微かに笑った気がした。


花粉症

ついでにティッシュ取ってよ臨也さん


recycle:-)
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