たくさんの傘が並ぶ。
きいろ、あお、あか、花柄、水玉模様、チェック柄、

それらの傘は小さめで、小学生が使っている傘だということがわかり、今の時間って登校時間だったんだなあとぼんやり考えた。

わたしの小学生時代は単色の傘ばかりだったのに、変わったなあ。
小学生時代といえば、最近たまちゃんに会っていないなあ。


カラオケオール明けでくずれかけたメイクをビニール素材で隠しながら歩くいつもの道は霞んでいる気がした。

ぱしゃぱしゃ
水溜まりを広げながら歩いていたけれど、そんなことはあまり気にならないくらい早く家に着いて寝たかった。


すれ違った青色で水玉模様の道傘があたしの前で止まってくるりと傘が回った。


「まるちゃん?」

「あ、たまちゃん。朝からどこいくの?」

「春休みだけどレッスンのために学校へ行くの」

「へーそうなんだ」

「まるちゃんは?」

「わたしはオールで飲み会だったんだ」

「えーいいな、そういうの楽しそう!」

「楽しいよーつかれるけどね!」

「いいなあ。ごめん、わたし電車の時間があるからもう行くね」

「うん。ばいばい」

「ばいばい、気をつけて帰ってね」


カールがとれてくたっとしている髪の毛に華がない唇。
今のわたしはたまちゃんに勝てる要素なんてなかった。

いや、もとからないのかもしれない。


わたしにはたまちゃんのような特技がない。才能がない。

わたしにはちまちゃんのような優しい雰囲気や表情がない。


水溜まりに映る自分をはねてから、家に向かった。





駅へと急ぐ、わたしの両足。

まるちゃんとちょっとおしゃべりしてしまったから、いつもの電車に間に合わないかもしれない。

いつもの電車より一本遅い電車でも、自分で学校に着きたいと思う時間には着くようにしているから、大丈夫なのだけれど。


水溜まりをうまくよけながら歩くのはもう慣れっこ。だんだん歩いている人の数が増えてきた。
まるちゃんみたいに多くの人の流れから逆らっている人が2、3人いた。

いつもは目につかないけれど、今日は違った。


「いいなあ、わたしも…」


その続きは言わなかった。
続きを言ってしまったらわたしがこれまでしてきたことが馬鹿馬鹿しく感じられるから。


わたしも、朝まで時間を気にせず遊んでみたい。わたしも、練習やテストを気にせずに思いっきり今を楽しみたい。わたしも、朝まで彼の隣で眠ってみたい。

なんて、口に出せない。


白い水玉模様の傘を閉じて、水滴を疎ましく思いながら傘をくるくる回しているとポケットに入れてあったケータイが振動した。


*メール受信*
*大野くん*


おはよう。
今日は4時にそっち着く予定。

練習がんばれ!
でもデート分の体力までは使わないように(笑)


*end*


小さなピンク色をした機械から飛び出したわたしを元気にさせる魔法。


顔がゆるんでる。

わたしはこれだけでしあわせになれる。

ああ、今日もがんばろう。

だいすきだなあ。


そう思わせてくれるこの人を大切にしなくちゃ。

返信をしている間もしあわせな気持ちが続いていて、しあわせだなあ、かけがえのない存在だなあ、あなたがいないとわたしはだめだなあ。

今日はちょっとだけ卑屈になってしまったけれど、会ったらちょっと愚痴をこぼしてしまうかもしれないけれど、多目にみてね。


**


おはよう:)
今日は雨で朝練ないのに
早起きだね!笑

レッスンが終わったら
また連絡します◎

そういえば今日
まるちゃんに会ったよ♪


*送信完了しました*


2012/04/15 雨音シャングリラ
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