バカップルでの過ごし方 | ナノ




はやく着いたのは俺だった。
広場に設置された時計を見ると約束の時間まであと二十分。
少し早すぎたな。
マフラーに鼻先まで埋めて苦笑する。
晴れているのに肌に感じる空気は冷たくて漏れた息は白い。
噴水の囲いに体重を預けながらポケットに手を突っ込む。
ふと目をやると凍ったそれが視界に入って、コートを着てこなかったことに少し後悔した。

凍った水。
それにある友人が思い浮かんでそっと目を細める。
素晴らしい勢いで抱き着いてきたエータに胸やら腰やら脚やらを撫で回されたのは何時のことだったか。
そういえば彼女には最近会っていない。
今日の夜にでもメールしてみようと決めてちらりと時計を見る。あと十五分。

冷えたポケットの中、硬いものに指先が触れた。
今日のために買った赤いピアス。
光があたればオレンジにも見えるそれは、きっとあいつによく似合うと思うのだけれど。
喜んでくれんだろうか、なんてちょっとだけ不安になる自分に恥ずかしくなった。
誤魔化すように時計を見る。
あーあー、そうかあと十分か。

そろそろ来るだろうと寄りかかっていた体重を外す。
ふるりと体が震えて本気でコートを着てくればよかったと思った。
くそ、失敗した。
自然と猫背になりながら眉をひそめ、ポケットの中の手をきゅっと握る。
ちょうどそのとき。

「薄着なんだよバーカ」
ばさりと背中に見覚えのあるジャケットが掛けられた。
え、と思うより先に俺の口は勝手に相手の名前を呼ぶ。
デルタ。
「んだよ。いいからさっさと着ろよバカ」
不機嫌そうに寄った眉。
でもそれとは対照的に合わされない視線、ほんのり目許が赤いのは俺の見間違いではない筈だ。
約束の時間まではあと五分。
早いな、と笑うと視線を逸らしたままてめぇよりは遅ぇよと返ってきた。

「…何時から居たんだ」
「二十分前くらい」
「早すぎ」
「俺もそう思った」
呆れたように眉間の皺を深くするデルタは俺に上着を貸したせいだろうけど寒そうに見える。
実際寒いんだろう、いつもより猫背だし、パーカーのポケットに手を突っ込んでるし。

「デルタ」
「あ?…っ」
巻いてたマフラーを外してデルタの首に巻きなおす。
上着を返したらきっと怒るだろうし、ないよりは暖かいだろうと黒いそれを巻いてやるとデルタは顔を真っ赤にさせておっま、なに、とか訳のわからないことを呟きながらうろうろと視線をさ迷わせている。

「これの礼」
はい出来た、と軽く胸を叩くとますます目を見開かれた。
赤い顔のままなにか言いたそうに口を動かしていたデルタは諦めたようにマフラーを鼻先まで引っ張りあげる。
あーもう。
毛糸の合間から唸る声。

「なんだよ。あ、もしかして臭い?」
俺は普段からだから気付かないけど、もしかしたら香水の匂いが移ってるかもしれない。
すん、とデルタの首筋に顔を近づけてみるとやっぱりちょっと愛用してるやつの匂いがした。
香水にも好みあるしなとちょっと申し訳なく思いながら顔を上げると顔を真っ赤にしたデルタが首筋をおさえていた。
どうした。

「ばっ…かじゃねーのかお前!ああもうちげぇよ臭くねぇよつか問題はそこじゃねぇだろバカ!」
「デルタんより頭いいぞ俺」
「うっせーバカ!」
「誰がバカだ」
バカバカときゃんきゃんと騒ぐ口がちょっと煩くて黙らせようと頬に軽く唇を触れさせる。
ちゅ、とわざとらしくリップ音。
予想通りびっくりしたように目を見開いて、それから真っ赤になって固まるデルタが可愛くてちょっと笑った。

「さ、行くかー」
俺より幾分骨張った手をとって、繋いだまま上着のポケットに突っ込む。
ポケットのなかはさっきよりも暖かった。




バカップルでの過ごし方






>>ふーちゃんから拙宅の一万打記念第二弾ということで頂いてまいりましたー!
ふーちゃん宅の圭さんと拙宅のデルタんです!

何これ可愛いぃぃ!青春!まさに青い春ですね!
この圭さんの男前具合とデルタんのへたれ具合がなんとも…!(*´∀`*)でもちゃんと女の子男の子な描写があってさすがふーちゃんです!
ふーちゃんこんな素敵な小説有難うございました!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -