オカルトの怪

「何でですか」

納得がいかないと言う表情で、椅子に背を預ける白髪混じりの中年男に問う。
ここは乙才高校の教務室であり、目の前にいるのは教師である。
そして俺は生徒と言うことになる。
まだ汚れもほつれも無い新品の制服に身を包んだ俺は今年入学した新入生で、今日ここに来たのには訳があった。

「……うちの学校なぁ、部活設立は4人以上からって決まってんだよ」

他の学校にもあるだろうが、数人で何らかの活動を行うためのグループである。
この教師と話しているのはその部活の事であり、放課後になってからもう数十分は話していると思う。

「じゃあもう一人探せばいいんですよね」

俺の手には部活の設立届けが握られており、そこには俺を含めた三人の名前とオカルト部設立希望という文字が書かれていた。
やや食い気味に白髪の教師に言えば、教師はバツの悪そうな表情に変わる。

「いやぁ、それでもなぁ無理だな…諦めろ安田」

「何でですか」

ここで冒頭に戻る。
先ほどから何回か続けている、四人になれば設立して貰えるのかというやり取り。
俺が戻って来ないからかオカルト部設立に賛成してくれた二人が廊下から覗きみているようで、視界の端にちらりと二人の姿が見える。

「それはね、事件があったからなの」

20代後半ぐらいの女性が、後ろから話しかけてきた。
松江先生、と白髪の教師がつぶやく。

「…昔、オカルト部の生徒が部室で事件を起こしてね…死んでしまったの」

白髪の教師はあとは松江先生にまかせればいいと言わんばかりに机に向かったので、俺も松江先生に向き直りいつの間にかくしゃくしゃになった紙を伸ばしながら聞いた。

「……どんな事件だったんですか」

「殺人…らしいんだけどね、生徒が殺されたんだけど……その遺体が出て来なくて、今もさまよってるって噂が出たりもしてね…」

「部室、見ても良いですか」

事件だなんて信じられない、そんな昔の事件だけで諦めるなんて無理…という訳ではない。
もしかしたらそのさまよっている生徒の霊が見れるかもしれないという気持ちからだったのだが、松江先生は白髪の教師に聞いてくれた。
先生が一緒ならという事で許可を得た俺と松江先生は廊下の二人にも声をかけ、四人で事件があったと言われる部室へと向かった。

オカルト部のプレートが掲げられていたであろう場所にはなにも下げられておらず、校舎の隅であることもあり不思議な雰囲気を醸し出す部屋の前までくる。

「事件があった後に清掃してしまったから、何もないとは思うけど」

部室の鍵を開け扉をスライドさせる。
しばらく開けられていなかった事もあり、むっとした埃っぽい空気があふれ出てきた。
室内は綺麗に整頓されており黒いカーテンの隙間から日差しが入り込む。
オカルト部のものらしきものも多少残されてはいるが、殺人が起きた形跡は見受けられない。
一歩部屋に入る。
松江先生は止める事無く後に続き、電気のスイッチを押したようで部屋が明るくなる。
別に取り立てて変な物は無い、古くなって壊れてしまった人形と赤い糸でぬわれたぬいぐるみが少し不気味だという程度である。

「さ、もう閉めるわよ。 遅いんだから早く帰りなさい」

松江先生に促され部屋を出る瞬間、床にこびり付いた赤黒い文字に目を引かれる。
確かに何かが書いてあった。
そう、確かに「 Lucifer 」と。

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