わたしには、すきなひとがいる。彼は、みらいが見えるそうだ。


いつまででも一緒にいよう



そのすきなひとの名前は迅悠一というらしい。自分で名乗っていたから、たぶん間違いではないのだと思う。 
話は一週間ほど前に遡る。大学の帰り道、たまたま警戒区域の近くを歩いていたわたしの傍で門が開いた。 あ、死んじゃう そう思った頃には、ねいばーと呼ばれる怪物は目の前にいた。 こわくて体のどこも動かせない。 人生短かったなあ、と諦めて目を閉じた。けど、何秒待ってもわたしの意識は保たれたままだった。 ふしぎに思って目を開けるとそこには、サングラスをしてきらきらの剣をもったイケメンさんがいた。

「無事ですか?もう大丈夫ですよ、実力派エリート迅悠一がきたからには!」

と、これまたきらきらとした笑顔で言う彼は、一瞬で距離を詰めて、耳元でちょっとまっててね、と言う。やっとの思いで声をだして「はい」と返事をすれば、迅悠一さんはにっこりわらった。わ、かっこいい、なあ。
それからあっという間にねいばーをすべて倒してしまった迅悠一さんは私の元へ戻ってきて、わたしの手をいとも簡単にとって引っ張る。体が触れていることにどきどきして、ぱにっくを起こしていれば笑われた。どうやらこれからボーダーの基地へいって、わたしは保護されるらしい。 そこでわたしは、ボーダーファン(嵐山さんがすきだと言っていた)の友人が保護された人間は記憶を消されると言っていたことを思いだした。

「いっ、いやです!行きません!」

わたしが声をあげて足を止めても、迅悠一さんは驚いた様子もなく軽い口調で「だよね〜」とだけ。 わたしのこころのなかは、この人を忘れたくないということでいっぱいだった。忘れてしまったらこのどきどきは、もう二度と味わえない。きっと彼に会うことももう二度とない。そんなのは絶対に嫌だった。人生でこんなにどきどきしたことは初めてだった。こんなに、手をつなぐという行為が特別に感じられたのも、横顔をみるだけで体温があがることも、わらった顔があたまからはなれないことも、ぜんぶぜんぶ、初めてだったの。だから、ぜったい、このひとのことを忘れたくない。わたしのわがままだった。

「俺ねえ、未来が見えるんだ。サイドエフェクトっていって、特別なものなんだけどね」
「は、はい」
「目の前の人間の少し先の未来が見えるんだけど、きみの未来はどうにも不安定だ。基地に行きたくないって言われることは確定していたけど、それから先はいくつも道があってはっきりしていない。…ここまでおっけー?」
「う、あ、おっけーで、す」

急に顔を覗きこまれて、心臓がこわれそうなくらいにはやく動く。どくどくどくどく、触れている手から、彼に伝わっていないことだけを願う。
未来が確定していたから、わたしが行きたくないと言ったことに驚かなかったのか、とゆっくり迅悠一さんの言っていることを飲み込んでいく。 わたしのみらいは確定していなくて、はっきりしていない。 これからどうなるかわからないってことだろうか。

「つまり、きみの未来はきみ次第ってこと」
「すきです、あなたのそばにいたいです」

わたしの口から漏れたのは、わたし自身も想像していないような言葉だった。 声に出してから理解して、みるみるうちに熱が湧き上がってくる。それといっしょに、後悔もやってきた。なにを言っているんだろう、初対面の、助けてもらった立場のわたしが急に告白だなんて、意味がわからない。わたしだって、意味がわからない。
けど、でも、いまここで言わなかったらわたしはもっと後悔したのだろう。 それだけはわかるからいまのは嘘ですとは言えない。 恐る恐る彼の顔を盗み見てみれば、驚いた表情をしていた。あれ、いくつもの道のなかに、このパターンはなかったのだろうか。

「…これは読み逃した。 びっくりした」
「ご、ごめんなさい」
「いや、えーっと、うん、あー…、俺さ 未来が見えるって言ったじゃん」
「はい」

彼はなんて優しい人なんだろうとわたしは感動していた。 あほみたいな告白に嫌な顔をひとつせず対応してくれている。 所詮ひとめぼれ、と言われるかもしれない。それでもやっぱり、このどきどきは、特別なものだと思う。

「だから、恋人はつくらないようにしてるんだよね。 未来が見えちゃうと、いろいろ悲しいからさ」

どこか遠くを見て、彼は言う。 その横顔が切なくて、未だつながったままの手に少しだけ力を込める。 ふんわり笑って「ごめんね」と言われる。 ゆっくり、世界が、滲んでいく。

「わたしが、ずっと、いっしょにいます…」
「え、?」
「悲しいみらいは、わたしもいっしょにかなしくなります。 わたし、あなたのそばに、いたい」

涙の膜が破れて、ぼろぼろと粒が零れていく。迅悠一さんはそれを慌てて拭ってくれた。 であったばかりの知らない女に、こんなことを言われるのはとてもめんどうくさいことのはずなのに、彼はやっぱりやさしい。 その優しさが、つらいもののようにも思える。 みらいをひとりで背負おうとしているなら、それを少しでも軽くしたい。 よりよいみらいをつくるために彼が悲しくなるのなら、わたしもいっしょにそうなりたい。

「…名前、教えてよ」
「みょうじ、なまえです」
「うん、なまえ。 俺のことは悠一って呼んで」
「へ ?」

つないである手を引かれ、悠一、さんの胸元に飛び込む。びっくりして口をぱくぱくさせることしかできないわたしの頭を軽くなでて、悠一さんはまたわらう。

「とりあえず、連絡先交換しよっか」
「へ、あ、はい」
「これからよろしくね、なまえ」


ああ、わたし、このひととならどこまででもいっしょに行けると、そう、思えるのです。


(とりあえず自己紹介しよっか) (っ、はい!)


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