刺さるような感覚も擽られるような感覚も、何一つとしてなかった。気味が悪いと言ったのは本当のことだ。戦闘時以外でサイドエフェクトが反応しない人間なんて早々いない。警戒心を高いところでずっと保っているか、俺に何の感情も抱いていないか、或いは他の何かか。でかい花束を抱えているせいでいつもより刺さる感情が気持ち悪くて苛々する。さっさと通りを抜けてしまおうと隊室まで急いだ。

「ヒカリ、おい、ヒカリ!」

 こたつの中で眠りこけていたヒカリを叩き起こす。むにゃむにゃ言うかと思えば、俺の抱えた花束を見て飛び起きた。目をこすり、ぱちぱちと瞬きをしてから大きな声を上げる。大袈裟なんだよ。

「カゲが花持ってきた! おいゾエ! 花瓶!」
「花瓶なんてないよ! カゲ、おかえり。どうだった?」
「どうもこうもねえ。これ飾っとけ」
「ええ〜花瓶ないってば」
「あるよ」

 奥の部屋から顔を出したユズルが大きい花瓶を持っていた。まるで俺が花を持ち帰るのを知っていたような態度に口角が上がる。知っていたんじゃねえか、と視線を向ければ、うん、と頷かれた。ゾエが即座にこたつの上を片付けて、ユズルが花を花瓶に入れた。ヒカリにこたつに入る許可を取ってから四人でぐるりと机を囲む。ヒカリには聞かれたくないんだったか、と吐き出す言葉を止めたが、ユズルが先に話だした。

「どうだった?」
「どうもこうもねえな。何もしてねえ」
「何の話だ?」
「そっか。でもカゲさんならわかったよね」
「…ん、」

 何の話だ、と再度ヒカリが言う。単に説明が面倒くさかっただけか、とユズルとゾエに説明を一任して湯呑の茶を啜った。

 地下は随分暑かった。それこそ、夏の温度と変わらない設定にしてあった。こたつに入って蜜柑を食う程度に季節は冬であり、外は当たり前に寒い。だがあの場所で彼女は半袖を着ていたし、出された飲み物も冷たかった。彼女はホットコーヒーを飲んでいたが好みの問題だろう。部屋のあちこちに観葉植物やら花やらが飾ってあって、それらの全てが夏っぽさを感じさせていた。つまり、あの部屋は意図的に夏を作り出したものだと推測がつく。理由はわからない。
 彼女が言った「君からしたら気持ち悪いかもしれないけど」というのは恐らく全てをわかった上での発言だった。感情が刺さらない人間が特殊であることを理解した物言いは、自分の感情を俺に感じさせていない自覚があるということだ。手慣れた動作で開かれた本の内容はよく見ちゃいないが、同じような能力を持った人がいたとも言っていた。対処法、と言ったのがいまいち気に食わなかったが、恐らく精神崩壊させないための何らかが記してあったことだろう。改造したというトリガーはどうにも胡散臭い。そもそも研究室の連中が戦闘に役立たないトリガーに熱を入れるとは思えない。実際に使用した場を見たわけじゃないが、十中八九自作したものと見て間違いない。トリガーの改造ができて、わざわざでかい部屋を与えられていて、自称元戦闘員。ゾエの「カゲのためを思ってじゃないかな」は大ハズレだ。

「次はおめーも連れてく」
「うん、ありがとうカゲさん」
「回りくどいことしてんじゃねえよ、助けてほしいなら助けてほしいって言え」
「…助けてほしいのは実質オレじゃないじゃん。それに、カゲさんなら見たほうが早いと思って」
「それもそうか」

 ゾエとヒカリが不思議そうな顔と感情を向けてくるのを無視して蜜柑を一つ口に放り込んだ。

「でもいいの? カゲさんにメリットないけど」
「あ? あいつ、強いんじゃねえの」
「…ふふ、そうだね。強いと思う」

 理由はそれだけで十分だと言わなくても伝わったのか、ユズルも蜜柑を剥き出した。自分の分も剥けと駄々を捏ねるヒカリに溜め息をつきつつ、蜜柑を食べきる。ゾエのやけにむず痒い感情が刺さったので、皮を投げておいた。


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