「すみません、躑躅森さんのスーツをお預かりしているんですが」
「へ」
「本日夕方頃の予定なんですが、電話も繋がらなくて。渡しても大丈夫ですか?」
「え、あ、はい!大丈夫です」

ようし帰るぞ〜!とロッカーで着替えを済ませた直後。お店から電話がかかってきたので戻れば、そこにはクリーニング屋さんがいた。同じ建物内にあるため、何度も顔を合わせているが、こんなことは初めてだった。

「ろしょく……躑躅森さん、電話出なかったですか?」
「2回程かけましたが、どちらも不在でしたね」

確かに、携帯電話のディスプレイは彼からのメッセージを受信していない。何かあったのだろうか、心配だ。

「すみません、預かりますね。サインとかいりますか?」
「引き換えの控えがないので、一応電話番号確認してもいいっすか。あともし判子あれば」
「はい。えーと、」

ポーチから躑躅森、と書いたシャチハタを取り出す。ろしょくんの電話番号を伝えて、ぱちりと印を押した。どうも、と短く言って頭を下げたクリーニング屋さんのアルバイトくんに何度もお礼を言う。

「ありがとうございます。すみません、気づいていただけて助かりました!躑躅森さんにも伝えておきます。今後このような事がないようにも致しますので…」
「いえいえ。俺の方こそ勝手にお渡ししてすみません。急ぎだったら困るかと思って」

なんて気の遣えるアルバイトくんなんだ…!と小さく感動をし、今度クリーニング屋さんの偉い人に差し入れと一緒に彼へのお褒めの言葉を持っていこうと決める。ぶっきらぼうに頭を下げた彼に手を振って、帰路に着いた。何度か着信を鳴らしてみたが、ろしょくんが電話に出ることは無かった。



「ただいまー、ろしょくん?」

靴がある。電気もついている。まさか倒れて、とリビングまで走るが姿は見つからない。洗面所とお風呂場を覗いてから、寝室へ向かった。

「ろしょくん!!」
「…ん、ぁ?」
「っっ、もーーー!!心配した!」

気持ちよさそうに眠っていたろしょくんが、びっくりしたと言わんばかりの表情でこちらを見つめていた。

「あー、すまん。寝とったわ」
「着替える前に寝ないでっていつも言ってる」
「…すまん」
「うん。いいよ。スーツ皺になっちゃうよ」
「ああ…ん? それ」

ろしょくんの視線の先には、私が抱えたままの彼のスーツがあった。わ、まずい、クシャクシャにしてしまってはいないだろうか、とそれを掛けようとしたところ 大きな手に奪い取られていく。

「うわ、すまん。クリーニング出しとったんに」
「んーん。クリーニング屋さんのアルバイトくんがわざわざお店に来てくれたの。次行くときありがとうしてね。…皺になってない?」
「まじか、わかったわ。おん、平気やね。ありがとうな」

ううん、と言って再度彼の腕からスーツをもらい、ウォークインクローゼットの中にかけた。それから鞄を下ろして、待っててね、と声をかけて手洗いうがいを済ませる。寝室に戻って箪笥から自分と彼の寝巻きを取り出して、一つを渡した。

「…なんや?」
「寝ちゃお!」

ご飯もお風呂もまだだけれど、きっとろしょくんは相当お疲れだろう。偶にはぜーんぶ明日の朝頑張ることにして、今日に甘えても良いのだと手を広げる。

「ぎゅってして?」
「…ん」
「ぎゅー」
「口で言うなや」
「ちゅーは?」
「……ほら」

ちう、と軽く唇が触れ合って、あまりの子供っぽさに2人で笑い合う。抱き合ったままベッドに倒れ込むように寝転んで、身を寄せあった。

「おやすみ、ろしょくん」
「ありがとうな。おやすみ」

きっと、お腹が減って起きるであろう明日の朝ごはんは、とびきりおいしいフレンチトーストにしようと決めて目を閉じた。いつもおつかれさま、と抱きしめる手に力を少しだけ入れた。

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