いつも通り仕事を終えて帰宅し、手洗いうがいを済ませたところ。ご飯を温めてくれているろしょくんのお手伝いをしようとキッチンへ向かった時だった。
「ん、なんやきらきらしとんな」
そう言って、彼の大きな手が伸びてきたので目を瞑った。瞼をするりと撫でられて、そっと熱が離れていく。ぱちりと目を開ければ、私のアイシャドウを絡めとった親指を凝視しているろしょくんがいた。
「いつもとちゃうやつか?」
「すごい、よくわかったね」
「きらきらしとるん、かわええな。似合うとるわ。…ん、でも色はいつもと一緒なんか、これ」
「ん、んーーー。おっきく言えばブラウンだけど、いつものは濃いめ。今日は明るめ!」
へぇ、色々あるんやなぁ。と微笑んだろしょくんに私の頬も緩む。ろしょくんは意外と、こういう細かな変化に気づいてくれる人なのだ。と、誰が聞いている訳でもないのに自慢げになってしまう。
「ピンクもかわいいな〜て思ったんだけどむずかしんだよね」
「仕事の日はいっつも茶色やなかったか?」
「うん。お仕事だからね。…ろしょくん、よく見てるんだね」
軽快なメロディーが電子レンジから流れ、温めていた煮物を取り出して皿に移す。味噌汁をよそいながら、ろしょくんが笑う。
「当たり前やん。好きな女なんやから」
「っ、な…!な、え、」
「お前も俺の事よう見とるやろ? 好きな男やもんなあ」
全身の血が沸騰してしまいそうなほど熱くなる私を予想していたのか、ろしょくんはくつくつと笑うだけだった。お盆にお味噌汁とご飯を乗せて「はよ煮物持ってき」と行ってしまう。ようやく動かせそうな手足でぎこちなく彼の大きな背中を追いながら、先程言われた言葉を胸の中でだいじに、だいじに、反芻した。
「好きだよ」
「おん。俺もや」
たったそれだけのことが、どれだけの幸福なのか、少なくとも私には測りきれないと、そう思う。
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