うーん、どうしよう。やることがない。と、読みかけの本を閉じて体をぐっと伸ばす。ろしょくんが帰ってくるにはまだまだ時間があるし、夕飯の準備は既に終えてしまっていた。ろしょくんとお休みが被らないのは今に始まったことではないので今更文句を言うつもりもないが、同じだったらいいのになと思うことはやめられない。私も暦通りのおやすみだったり、決まった時間の業務であったのならばもっとデートができたりしたんだろう。今の仕事をしていなければろしょくんに会うこともなかったし、今の仕事は好きでやっているのだからやっぱりなんの文句もない。これはないものねだりというやつだろう。

元を辿れば、ないものねだりをどうしてもしてしまう私に気づいた彼が同棲を持ちかけてきてくれたのだ。声に出したことは一度もなかったが、家に一人でいるとどうしても不安になってしまう私に大丈夫だと優しい声をかけることでも、頻繁なメッセージのやり取りや電話を選ぶわけでもなく、一緒に暮らすことを選んでくれた。何もかもを受け止めて、彼は笑って、ええよ、と言う。

「…おてがみだ」

手紙を書こう、と思い立って便箋を机の引き出しから引っ張り出す。きちんとした手紙を書くのは彼の誕生日くらいなものなので、こういったなんでもない日に書くのは初めてだった。ろしょくんの字とは似ても似つかない筆跡に少し笑って、彼に日頃の感謝を書き留める。胸の奥からじわじわと溢れてくる、ただ、ただ、好きだという感情。ぶつけるわけじゃなく、渡せるように。受け止めるか、置いておくかは、彼が選べるように。言葉を選んで、想像して、書き進めていく。

喜ぶかな、驚くだろうか。お返事をくれたりするのかもしれない。彼は律儀だから。
きっと、私が何を書いても。どんなわがままを言っても、ないものをねだってしまっても。彼はいつだって眉を寄せて、口角を上げて、目を細めて、しゃあないなあ、と。そう言って笑うのだろう。

手のかかる子でごめんなさい、と言いつつも。ほんまにお前は手のかかるやつやな、と言うろしょくんの酷く幸福そうな表情を知っているので。私達はきっと、今日も、明日も、どこにでもあるような、ここにしかないような、日々を重ねていくんだろう。

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