ない、ない、どこにもない。ろしょくんからもらったアンクレットがどこにもない。なんで、だってこの間のお休みはつけてたのに、いつ外したんだっけ。どうしよう、なんでないの。
と、家中をひっくり返す勢いで小さなアクセサリーを探し回る。空は茜に染まっており、ろしょくんはもうすぐ帰ってくるだろう。それまでに見つけて、散らかした部屋を片付けなくちゃいけないのに。もしどこにもなかったらどうしようという考えにとらわれて動けなくなる。アクセサリーをあまり好まない私のことを考えて、ろしょくんが選んでくれた足首につけるそれは、私のたからものとも呼べるものなのに。

「っ、」

ただいま、と言われることを恐れて玄関のチェーンをかけた。いつ帰ってくるか分からないけれど、見つけるまでこれは外せない。だって合わせる顔がないからだ。
物をすぐなくしてしまう私のために必要最低限にしか置いてない家具たちと、アクセサリーを入れるケースまで一緒に選んでくれたというのに。ああ、ほんとうに、どうしよう。どうしようもない。


ぴんぽん、とインターフォンの音がする。ろしょくんだ、絶対に。ぺたりと床に座り込んでしまって、そこから動けない。次いで鳴った携帯電話にも、反応することは叶わなかった。

何度か着信を告げたあと一切音がならなくなった携帯電話の黒い画面をぼうっと見つめる。何してるんだろう、ろしょくん、お腹空いてるだろうに。お仕事で疲れているのに。迷惑ばかりをかけて、これじゃあ本当にどうしようもない。

ガキン、と少し大きな音が玄関から聞こえた。どすどすと大きな足音がして、バタン!とドアが鳴く。

「大丈夫か!?」
「っ、ひ、」
「具合悪なったんか、不審者でも来たんか、チェーンなんて普段言ってもかけんやろ、なんもされてへんか、空き巣か? なんか盗まれたり…はしとってええ、体は無事なんか、」

ぎゅうう、と抱きしめられて、涙がろしょくんのコートに染みをつくっていた。ごめんなさい、と何度もこぼす私と、どこか怒ったような表情のろしょくん。きっと勘違いをしているから、誤解をとかなければならないのに、私の頭はちっとも上手に働かない。

「どこのどいつや、ぶちのめしたる」
「ち、ちがうの…っ、う、」
「…俺が、もっとはよ帰ってきてれば」「ちがう!」

大きな声にろしょくんが驚いたように目を丸める。嗚咽で酷いことになりながらたどたどしく経緯を説明すれば、ろしょくんが再度私を抱きしめた。今度は思いっきりで、痛いくらいだ。

「よかった…!お前になんかあったら思ったら、ほんま、俺…」
「ごめんなさい、っ、」
「なあ、それな、俺も謝らんといかんねん。鞄の中に入っとってな、多分今朝引っ掛けてしもてんよ」
「っえ」
「不安にさせてすまんかった。…大事にしてくれて、ありがとうな」

よかった、とまた泣く私を優しく撫でてくれる。
きっと、言いたいことは沢山あるはずなのに。私の感情を優先して、落ち着くまで何も言わないでくれるろしょくんの優しさにほんの少しだけ距離を感じ、ああ、私も早くこうならなくちゃ、と静かに決意する。いつまでも泣き虫で甘えたでは、いつか愛想をつかされてしまうかもしれないのだと、わかっているはずなのに。

「大丈夫やから、な」

うん、ろしょくん。ありがとう、ごめんね。

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