「前髪伸びたなあ」
鼻先を覆うくらいまで伸びた前髪をとって、ろしょくんが言う。ろしょくんと同じくらいかな、と同じ行為を仕返した。
「そろそろ切らなきゃ、巻くの限界になってきた」
「朝大変そうやもんな。俺は短い方が好きやし、ええんちゃう?」
「え!?」
声がひっくり返るくらい大きな声が出た。私もろしょくんも同じくらいびっくりした顔をしている。
「なにそれ、短い方が好きって初めて聞いたんだけど!」
「あ、あー…その、なんや。まぁ、そやね」
「なっ、えっ、お、おしえてよ…!」
「言うたらそれしかしなくなるやん。お前はお前の好きな風にあってほしいんよ」
なるほど、と納得した気持ちになりかけて、いやいやと首を振る。
「ろしょくんが好きになってくれるならなんだってするんだよ」
「もう十分好きやんか」
「そうじゃない!」
「髪型ひとつでえらい好きになったり、嫌いになったりもせぇへんよ」
「でも短い方が好きなんでしょ?」
「………まぁ、せやけど」
「いつでもいっちばん好きでいてほしいんだよ。私はろしょくんのこと、いつでもいっちばん、好きよ」
ギュ、と彼の腰に抱きついてぐりぐりと頭を押し付けた。不安がりな私の、エゴともわがままとも言える行為を、どうか許容してくれますように。
「そんなんなぁ、毎日毎日、いっちばんが更新されてくんやぞ」
「へ」
「前髪を切っても切らんくても、喧嘩してもせぇへんくても、なんでもや」
「なんでも」
「そう、なんでも。毎日お前の好きやなあ思うとこみつけてな、苦しくなるねん。お前も一緒やろ。違うんか?」
「…違うくない」
「ん。ええこ」
ああ、それでもね。いつでも私の一番欲しいをくれる君に、私もありったけの最上級を返したいと思ってしまうのよ。
「はは、なに泣いとんの。かわええなぁほんま」
「…泣いてない」
「ん、そか。目からお水流れてしもたんやな」
「うん」
「お前が思うとるよりな、俺はお前のこと好きやねんぞ。もういらないー言うても逃がすつもりなんてあらへんからな」
「………すき」
「おう、俺もや」
ちゅ、とくっついた唇からお互いの好きすぎて苦しいを分け合った。ろしょくんとなら、地獄へ落ちたっていい。そう思える恋をしている。ろしょくんにそう言えば、絶対地獄になんか落ちてやらんと言うんだろうけれど。
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