「ただいま。…ん、」

玄関に投げ出されるように脱いであるスニーカーを揃えて溜め息を吐く。どうやら行き違いになってしまったらしい。おかえりの声が聞こえないことに疑問を抱いてリビングへの扉を開ければソファからはみ出した足が投げ出されていく。顔を覗けば、ぐっすり眠っていた。

「おつかれさん」

起こさないように小さく告げて夕飯の支度を始める。こどもの日、というよりはどの季節行事もになるが、彼女と一緒になる前まではただただ過ぎていくものだった。職業柄、ほとんどの季節行事に携わる彼女の傍にいると、自然ともうすぐなんの日がくるなぁ、と思うようになるのだから、不思議だ。

鍋に水を入れて火をつけて、白菜を切って入れる。肉を適当な大きさに切って皿に移し机まで持っていった。カセットコンロを引っ張り出してきた。

「 」

名前を呼んでも起きる気配はない。よっぽど忙しかったのだろう。準備のできた食卓を一度置いて、彼女の寝顔をじっと見つめた。…黙っているのは、なんだか落ち着かない。

「こーら、起きなあかんよ。飯食って風呂入ってから寝なあかん」
「んー……ん、」
「はよ起きんと俺がしゃぶしゃぶ全部食うてまうからな」
「……ろしょくん?」
「アホ、他に誰がおるねん」

薄らと持ち上げられた瞼に口角が上がる。幼子にするように抱き上げて起こせば、そのままなだれ込むようにして抱きしめ返された。数回背中を優しく叩き、定位置に座らせてやる。未だ夢現なのか、がくがくと頭が動いていて危なかっしくて見ていられない。

「お行儀悪いことせんの。ちゃんとし」
「ん、おはよ、」
「はい、おはようさん。手洗いうがいちゃんとしたか?」
「した」
「ようできました。いただきます、できそうか?」

いくつか意味のない言葉をこぼし、それから漸く夢から覚めたような表情をする。

「できる!いただきます!」
「っは、元気やな。いただきます」

やったあしゃぶしゃぶ!と喜んでお礼を言ってきた彼女に視線と表情で返事をした。
彼女の甘えたの原因に、自分が含まれていることには気付かないふりをして。あのね、今日はね、といつものように始まる会話に意識をやった。

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