「いつまで歯磨いとんねん」
「んーーー」
「はよすすいできぃ。もう寝る時間やっちゅうに」

呆れたろしょくんの声に歯ブラシを咥えたまま苦笑して洗面所へのろのろと向かう。気を抜いたらテレビを見ながらいつまでも歯磨きを続けてしまうのは私の悪い癖だ。口の中をゆすいでからリビングへ戻ればコップに水を汲んだろしょくんがいる。薬と一緒にコップを差し出されて、しっかりしてるなぁ、と思った。

「ありがと〜」
「いつになったら忘れないで飲むようになるんかわからんな、ほんまに」
「へへ」
「褒めてへんからな」

返事と一緒に水と薬を飲み込んで、ぷは、と息を漏らす。やれやれ、とでも言いたげな表情でこちらを見るろしょくんに再度笑ってシンクにコップを持って行った。明日の朝、今日の自分を嫌いにならないようにすぐに洗って、それから立ったまま私を待っている彼の元へ戻る。次に差し出されたのは大きくて温かい手のひらだ。寝室へ行くまでのたった数歩。この瞬間が、待ち遠しくもあり、少し切なくもある。

「あ!」
「なん」
「明日から5月だね」
「ん、そやね。4月はあっという間やったなぁ」
「ふふ、ろしょくんそれ、3月終わったときも言ってたよ」

うるさいねん、と額と額がぶつかって、至近距離で笑い合う。そのまま倒れ込むようにベッドへ転がって、身を寄せ合う。ろしょくんが眼鏡を外して、私の名前を呼んだ。

「なあに?」
「あー、呼んだだけや」
「え!なにそれ!」
「ええやんたまには」
「うん。いい」

私は名前を呼ばれるのが好きだから。と、その言葉はなんだか少し恥ずかしくて飲み込んだ。来月もろしょくんと一緒に居られることが嬉しい。来月とは言わず、明日も、朝も、今も、一分後ですら。君の隣に私が在る未来が、ろしょくんにも私にも当たり前に広がっていることが、心の底から。

「寝んで。明日お前は仕事やねんから」
「…ごーるでんうぃーく、なくてごめんね」
「アホ、何謝っとんねや。ちゃうやろ」
「うん。おいしいごはんつくってまっててね」
「おい」
「送り迎えもしてくれてありがと」
「…それはまぁ、お前まだ運転できひんし」
「おべんとは毎日私がつくるからね」
「ん、ありがとう。明日もがんばり。…おやすみ、な」

うん、という返事はろしょくんの唇に吸い込まれていった。ろしょくんの長い髪が首筋を掠めてくすぐったい。でも、これが、私の安眠剤のようなものだ。

「おやすみ、ろしょくん」

またあした、ね。

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