「ただいまー、って、あ?」
「やば」
玄関からろしょくんの声が聞こえてきて慌てて火を止めた。彼の足音は既に近くにあり、必死に焦りながらどうにかエプロンを外して後ろに隠す。ダメだ、お鍋に蓋をしていない。
「…なにしてたん」
「お、おかえりろしょくん!今日もお仕事おつかれさま」
「なにしてたん、って聞いとるんやけど」
私と、お鍋を交互に見て、それから換気扇が回っていることに気づいてため息を吐かれる。くしゃりと握り込んだエプロンを取り上げられてしまった。無言のまま手を引かれソファに座らされる。腕を組んで私の前に立ちつくすろしょくんは、予想通りに、怒っている。
「ごはん、つくってたよ」
「あかん言うたよな。長時間立ってたらあかんって家出る前に言うたの聞いとったな? はぁいて返事しとったもんな?」
「きょ、うは調子よくって」
「昼に連絡したとき頭痛い言うてたのは誰やったかなァ」
う、と言葉が詰まる。ろしょくんの視線は私から逸れることがなく、退路はどこにも見つからなかった。
「だって、ずっとしてもらってばっかりで」
「ちゃうなぁ」
「おいしいごはんたべてほしくて!」
「それもちゃう。わかっとんのやろ」
「…………ごめんなさい」
「もうせぇへんか?」
「う、それ、は…」
はぁー、と深い溜息の音。それからどさりと隣に沈み込み、ぐしゃりと頭を撫でられた。
「せめて俺がおるときにしぃ。わかったな」
「…!うん!」
「返事はうんやなくて?」
「はい!」
「ん、ええこ」
ぽんぽん、と頭を撫でてくれるろしょくんの腕に擦り寄る。目を細めて、眉を下げて、しゃぁないなあと言わんばかりの表情に嬉しくなって抱きついた。
「なにつくってたん」
「にくじゃが!」
「お、ええやん」
「えへへ」
私にいっとう甘いきみが、今日も愛しいなあ、などと。
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