するりと前髪を掻き分けて、心配そうにこちらを見る彼と目が合った。眉根を寄せて、目尻を下げて、なんだかとても情けない表情をしている。
「すまん、起こしたか」
声を出そうにも、起き上がろうにも、体のどこにも力が入らなかった。視線だけで彼に大丈夫だと伝えるも、何故だか上手く伝わらないようで。いつもだったら安心した声色で「そうか」と返ってきそうなものなのに、彼の口から空気が吐き出されることはなかった。
手を、伸ばしたかった。触れたいと思った。
もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね。迎えに来てくれて、看病してくれてありがとう。そう言いたいのに、視界がぐるりと動き出す。すぐにスクロールし始めた世界の端っこで、どうかあなたのことを見逃してしまいませんように、と必死に目を開ける。
「あかん、目まわっとんのか?」
不自然に動く私の瞳を見てか、彼の手の平がそっと私の視界を暗くした。待って、やめて、見えなくしないで。どこにも行かないで。と、思えど思えど、彼にはひとつも伝わらない。ああ、どうして。
「…ごめんなさ、」
手のかかる面倒くさい恋人で、ごめんなさい。
「…起きたら説教やぞ」
虚ろになっていく思考の中で、言葉の意味とは裏腹に甘く柔らかな声色が脳を揺らした。手と手がぴたりとくっついて、それから絡まる。その先にある温度と優しさに安心して、そのまま意識を手放した。
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