「ピアス、あけたいな」

ごとっ、と鈍い音が響いた。どうやら持っていた教科書を落としたらしい。固まったままのろしょくんを他所に教科書を拾い上げて折れていないかを確認する。大丈夫そうだ。

「駄目や」

数秒待って返ってきた言葉がこれだ。言うと思ったけれど、なんの意見も聞かずに否定されるのはなんだかむっとしてしまう。ろしょくんに教科書を手渡し彼の瞳をじっと見つめる。ろしょくんもまた、私をじっと見つめていた。

「どうして?」
「逆に、なんで開けたい思たん」

質問に質問で返すのはルール違反ではないのか、という言葉を飲み込んで脳内からろしょくんが納得いきそうな理由を探し出すも、どこにも見当たらない。そうだ、だって私はわかっている。彼が許してくれないことを。

「かわいい…から」

本音だった。体裁も言い訳も全て無くした後の本音。ピアスは可愛い。イヤリングでも可愛いのだが、中々どうして限界がある。種類も、形も、大きさも、値段も、ピアスの方が秀でているのだ。

「職場の子ね、みんな開いてて、かわいいなーって…」
「あかん」
「仕事中は勿論つけないよ、ルールだもん。それに…」
「あかん言うとるのがわからへんの」

びく、と自分の肩が跳ねた。少し呆れた表情をしたろしょくんが私から目を逸らし溜息を吐いている。

「…ろしょくんのわからずや」
「アホ。わからずやはお前や。…あんなぁ、俺やっていじわるしとるんちゃうで」
わかっている。そんなこと、わかりきっているのに。私の口から言葉は出てくれない。ごめんね、そうだよね、我慢するね。たったそれだけで彼のことを困らせないで済むというのに。
「元々、あんましアクセサリー好きやないやん、お前。買うた時はええけど管理までは苦手やろ。それに、アレルギーまではいかんくても金属に強い方の肌やあらへん。ましてや毎日つけたり外したり消毒したりなんてできると思えへんわ」

正解だ。全部合っている。返す言葉も見つからない。

「……泣いても駄目なもんは駄目や」
「泣いてないもん…」
「ずびずび言いながら何言うとんねん。あー、ほら、こっち来ぃ」

教科書を置いたろしょくんの腕に引かれて彼の胸元に飛び込んだ。ぽんぽんと頭を撫でられてから彼の指先が耳に触れてこそばゆい。涙で変色してしまったパジャマが恨めしそうにこちらを見ていた。

「俺もピアスは開いとらんよ」
「…うん」
「次の休み、アンクレット買いに行こか。好きやろ、足につけんの」
「うん…」
「ん。ええお返事。ほら、もう寝んで」

ひょい、と軽々しく体を持ち上げられて涙が引っ込んだ。やだ、重い、降ろして、とじたばたすればくつくつとろしょくんが笑う。

「お前はそれでええねん。急いで大人になんかならんでええ。背伸びやってしてほしくないんよ」

ああ、今日も完敗だ。

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