いつもより体温が低い。と、彼に触れている手のひらが違和感を訴える。表情を見ても、なんら変わりはない。そこにいるのはいつものろしょくんだ。

「ろしょくん」
「ん?」

上擦った声が彼の名前を呼ぶ。いつもの呼び方と違うことに気づいたのか、不思議そうな表情をしている。眠たげに細められた目がじっと私を捉えていて、そこにはなんの違和感もない。

「ぐあいわるい?」

ぱっとろしょくんの左手が私から離れていく。しどろもどろに視線を彷徨わせたあと、眠気を無くした目になった。追いかけるように彼の左手を握り込み、それから額に手のひらくっつける。熱くない。冷たい、わけではないけれど、けれどやっぱり、いつもよりは少し低い。

「ろしょくん」

中々返事が来ないものだから名前を呼べば、唇が引き結ばれてしまった。ろしょくんは、頑固だ。それでいて、度々優しい嘘をつくことがある。

「だめ。ちゃんと言って」
「…なんでわかったん」
「いつもよりちょっと冷たかったから」
「すまん、あたったつもりはなかったんけど、」
「違うよ、態度がじゃないよ。体温だよ」

ろしょくんの目が大きく見開き、それからくくく、と喉がなる。なにを笑っているんだ!と頬を膨らませれば、人差し指でつつかれた。

「お前は俺より俺のことがわかるんかいな」
「へ?」
「ちょぉ寝不足かもしれへんだけや。昨日中々寝付けんかったんよ」
「えっ、ごめん、私めちゃくちゃ寝てて、」
「謝る必要ないやろ。俺が勝手に寝れへんかったやけやし。それにいつも俺のが寝るの早いねんから、たまには寝顔見したってや」

ぎゅう、と指に力が込められる。言葉を失ってしまった私は、彼を見つめることしかできない。せめてもの思いで、どうか届きますようにと指先から祈りを込めた。

「抱きしめてくれへんか」

こんなことを言われたことは、今の今まで一度もなかった。

いつも私が甘えてばかりだから、こうして甘えてくれたことが素直に嬉しくて、ぎゅうぎゅうと彼に抱きついた。ろしょくん、あのね、だいすきだよ。そういう気持ちを込めて彼の胸板に頭をぐりぐりと押し付ける。ぽんぽん、と頭を撫でてくれるろしょくんは、私がそれを好きなことを知っている。

「よう眠れそうやわ。ありがとうな」
「…ううん」
「おやすみ、また明日な」
「うん。おやすみなさい」

朝起きる頃にはいつも通りのろしょくんになっていますように。

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