「ろしょぉくん……ろしょ、く…」
「ん、なんや。おるよ、ここにおる」

すっかり泣き腫らした目元にそっと口付けて彼女の小さな手に指を絡めて握りこんだ。元々情緒が不安定気味の彼女だったが、ここ最近は特に安定しない日が多かった。嫌なことがあったのかと問うても首を横に振られるだけなので、きっと周期的な問題なのだろう。季節の変わり目やし、暗いニュースばっかやっとるし、そういうのが積み重なってるのかもしれへんなぁ。

「ろしょくん、あのね、」
「ん?」
「ずっとね、ずっとずっと先にね、」

夢現、と言った所だろうか。泣き疲れて直ぐに寝つくかと思えば、目が閉じたまま舌足らずだが懸命に言葉を紡いでいた。母音をいくつか零しては考え込むように押し黙り、寝てしまったかと思えばうんうんと唸る音。忙しいやつやな、とそっと頬に口付けた。どうやら眠すぎて何をされたかわかっていないらしい。

「あかちゃん、ほしいなぁ…」
「っ、おお」
「おとこのこがいい?おんなのこ?」
「授かりもんやからな、どっちでも同じくらい嬉しいに決まっとる」
「ふへ、そっかぁ…」

彼女がこう言った、先の未来を口に出すことは滅多にない。ずっと一緒にいようね、とよく口にすることはあっても、具体的な何かを提示したがらない。何故かと一度だけ聞いたことがあるが、幾度とない謝罪と共に 叶わなかったら死んでしまうから と答えられた。約束をするのがこわいと言う彼女の冷えきってしまっていた心を、少しでも溶かすことができたのだろうか。

「ちゃんと、待っとるから」
「……うん」
「焦らんくてもええよ。俺はどこにも行かへんし、お前も俺から離れられんよ。まぁ、それは俺だけが知ってればええんかなぁ」
「…ごめ」「ちゃう」「…ありがとう」
「ん、えらいえらい」

いつまでも左手薬指につかない環状金属の理由は、俺だけが知っていれば良いだろう。

君が大人になるまで、いつまでだって待っている。

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