「おべんと取りに帰ってもいい?」

気をつけなよ、と同期の声に手を振って会社から自宅へ向かった。お弁当忘れるの久々だなぁ、なんて思いながら段々と暖かくなってきた季節に少し嬉しくなる。昼間に外の景色を見ることがあまりないからか、いつもの道のはずなのになんだか新鮮だった。

「ただいま〜」
「ん、おかえりぃ」
「え?」

玄関を開けて靴を脱ぎながら吐き出した挨拶に少し遠くの方から返事が聞こえて思わず動きが止まる。あれ、なんで、だって今日ろしょくんは仕事で、あれ?

「いつまで突っ立っとん」
「へ、あれ、ろしょくん?」
「おん。午前中で終わりやったんよ。…って昨日の夜言うたんやけどなぁ!」
じとりと向けられた言葉にサッと視線を逸らす。
「あ、はは、そうだっけ」
「まだ起きる〜て駄々こねたから喋っとったんに一分足らずで寝たやつには聞こえてなかったかもしれへんなァ」
「わー!わー!!ごめんなさい!!」
「ふは、よろしい。で、どしたん? 仕事終わった訳やないやろ? あ、弁当か?」

うん、なんでわかったの? という前にお弁当を入っている袋を持っていることに気づく。

「今届けに行こうかと思ってたんよ。まーた忘れとる、思ってな」
「ひ、ひさしぶりだもん」
「先月何回忘れたんやっけ?」
「……ろっかい…」

私の返事を聞いて大笑いし始めたろしょくんをぽかぽかと叩く。痛くもなんともありません、とでも言いたげに笑い続けるものだからいじわる!と頬が膨らんだ。

「家で食うてくか?」
「んーん。なんかあったら困るし戻るよ」
「ん。送るで」

私が手に持っていた車の鍵をするりと奪い取り、慣れた手つきで靴を履き始めるろしょくんに慌てて続く。数時間前におはようの挨拶をしたばかりだけれど、予想していないタイミングで会えるというのはこんなにも嬉しいことなのか、と口角が上がりっぱなしになってしまう。卸したての春用のコートからふんわり香ったろしょくんのお気に入りの香水が幸福を感じさせた。

「ほら、おいで」

玄関のドアを開けて手をこちらに差し出したろしょくんの手を取らず、そのまま飛びついた。

「うおっ」
「ろしょくん、だいすきぃ〜〜…」
「なんやねん、知っとるわそんなん。いきなり飛びついたら危ない言うとるやろ」
「ううう〜〜〜…」

ぱたりと閉じられるドア。はあ、とわかりやすく溜息を吐いてから抱きしめ返される。

「午後も頑張り。な?」
「うん…」
「迎えに行ったるから」
「うん…」
「よしわかった。晩飯はオムライスにしたる」
「うん、」
「っああ!こっち向き!」

痺れを切らしたろしょくんの方を向く前に顎をろしょくんの綺麗で男らしい手に掬われて視線がかち合う。それからすぐに降ってきたキスにそっと身を委ねた。

「ん、これでええやろ。行くで」
「へへへ」
「笑っとる場合ちゃうぞ。甘えたも程々にしぃ」
そんなことひとつも思ってないくせに!
「ね〜ろしょくん」
「…なん」

ちゅ、と軽く触れて離れた。目を見開いたろしょくんが、今しがた唇をつけた額に手をあてる。

「おっっまえは…!」
「わ!ろしょくん!早くしないとお昼終わっちゃう!」
「ええ加減にせぇよ!!」
「きゃー!ろしょくんが怒った〜!」

階段を先に降りて怒った顔のろしょくんを下で待つ。ああ、午後も頑張れそうだ!

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