目が覚めた時に隣にいないのが寂しいと泣かれてから一体どれくらい経っただろうか。細かな言い合いをする度に泣くのを堪える様子を見ていたから、なんの取り留めもなく大泣きする姿を見て驚いたのが記憶に深く刻まれている。変なところで拘りが強く体育会系思考の彼女は、度々泣いたら負けだと言う。嬉し泣きは良いのだと言い訳も欠かさずに。

「んん……」
「おはようさん。そろそろ起きなあかんよ」
「う……おは、よ?」
「おん。おはよう」

眠たげな呂律に笑いながら目を擦る手をやんわりと止めれば擦り寄ってくる頭。世間は三連休で、彼女にとっては忙しい週末だったからかいつもより寝覚めの悪い朝だ。

「やだ……行きたくないぃ」
「さすがに連勤長いもんなぁ。あとちょっとやで、ほら、頑張り」
「だっこ」
「甘えんぼやな朝から」

では昼や夜なら良いのか、と問われればいつだって良いと返す程には俺もこいつに甘いな、と力が抜けた体を抱き抱えてやる。きゅう、と抱きしめられる力を感じて思わず目を細めて笑った。ちゃんと起きとるやないか。

「ほれ顔洗うで。着替えて化粧しとる間に朝飯つくっとくから」
「んん…ありがとう」
「今日は夜飯食うてくるんやろ?」
「起きたぁ…。うん。ろしょくんは?」
「あー、簓と零がうち来る言うとるんやけど、ええか?」

顔を洗い終わった彼女の目がぱちぱちと瞬く。簓はまだしも、零には会わせたことがない。

「わ、ごはんとか用意しなくて大丈夫? 早く帰ってきたほうがいい?」
「いや、ええねんあいつらは」
「しつれいじゃない? へいき?」
「どっちかっちゅうとあいつらの方が失礼やな。もしかしたら帰ってくる頃にはうるさくしとるかもしれへんけどほんまに大丈夫か?」
「うん、それは全然。あまやどさんには初めてお会いするなぁ」

会わんくてもええけどな、と聞こえない音量で言ってから彼女をリビングに置いてキッチンへ向かう。おかゆでも作ったるか、好きやしな。

「ろしょくん〜〜〜おくすりない〜」
「アホお前昨日ポーチ入れとったやろ」
「あ!」
「ヘアゴムとピンはあっこに置いといたからな」
「えへへ。ありがとう」
「手のかかるやっちゃな」

目を合わせずとも彼女が頬を膨らませているのがわかって、喉を鳴らす。せめて春休みの間は甘やかしてやらんとなぁ。

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