「 」

真夜中、まだ日が昇るには遠い時刻。わたあめのように甘く柔らかく吐き出された自分の名前が脳を揺さぶった。私より高い体温が足に絡められていて心地よい。霞む視界の中、夢か現かも分からぬままどうにか返事をしようと眠る時から繋がったままの指に力を込めた。

「ん、起きとるの」
「んぅ、ん…」

起きているとは言い難いが、ここで眠ってしまいたくない気持ちが大きい。腕枕をしてくれている腕を器用に折り曲げて撫でられる頭。そのままとんとん、と頬をつつかれる。ふ、と吐息が口から漏れていった。

「ろしょくん」

差し詰め、生キャラメルといったところだろうか。彼のものよりほんの少しだけ苦みを帯びた、それでも甘く香ばしい声色。私が甘える時の声を、ろしょくんは好きだと言う。

「なあに」

私はこれが、大好きだった。世界中のどこを探しても、恐らく私にしか与えることのない、この世の全てを許すかのような、うっとりするような、情緒的な返事。

「ふは、寝そうやんか。…起こしてすまんな」
「んん…ううん…」
「うん、うん。知っとるよ」
「ろしょ…く……」
「おん。わかっとるよ。俺も大好きや。うん、」
「ぅ……」
「うん、ありがとうな。寝よか。おやすみ、また明日な」

言葉じゃなくたって良いのだと、冷たさを帯びた夜をどろどろに溶かした彼が教えてくれる。頭を掻き混ぜる手の平の優しさが、首にかかる吐息の僥倖さが、足に絡まる温度の愛しさが、すべてひとりぶんではないのだと、他でもない君が教えてくれるのだ。

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