「ろしょくん、おはよー。…行ってくるね」
「…ん、……あ?」
「ふふ。おやすみ」

一瞬起こしてしまったかと思ったが、すぐに寝息が聞こえてきて安心する。今日はホワイトデーなのでいつもより早い出勤だ。ろしょくんはおやすみなのでゆっくり寝てほしいと前日から伝えてある。

「ホワイトデーかあ」

イベントを追う職業についているため、暦の上の大抵のイベント行事は仕事が忙しい日が多い。それと同時に、どこか自分事になれない気持ちがあるのだ。クリスマスも、バレンタインも、ホワイトデーも、お仕事が忙しい日、という管轄である。自分は仕事が好きなので、それが嫌な訳では無いのだが。

ろしょくんは、お返しをくれるんだろうか。律儀な彼な事だからきっと用意はしてくれているんだろうけれど、誕生日の時のようにそわそわしているわけではなかったし。…今年はなんだろうな。と、期待してしまうくらいには彼のことを信頼している。

:

「ただいまぁ」
「おかえり。おつかれさん」
「…ろしょくん」
「なんや」

会社を出た時に連絡していたからか、玄関に入ってすぐ迎えてくれたろしょくんに思わず抱きついた。疲れた。忙しかった。頑張ったよ。そのどれもを言葉にしないでもわかってくれると思ったから、甘えてしまう。ろしょくんが私の頭を緩く撫でていた。

「お疲れやな」
「めちゃ忙しだった…バレンタインよりすごかったかも」
「それはすごいなあ。…ん、ちょっと待っとって」

再度頭を撫でてから離れていく体温。手洗いうがいをしなさいと言われると思っていたため少し驚いてしまう。言われるがまま、素直に待っていれば目に飛び込んできたのは綺麗な赤。

「お菓子は今日一日で見飽きたかと思ってな。悩んだんやけど、花、好きやろ」

花が好きだと口にしたことはあっただろうか。きっとない。でも、知っているんだな。

「靴とか、ヘアアイロンとか、服とか、アクセサリーとかあと生徒に聞いたんやけどはーばりうむ?とかなんや色々悩んだんやけど、やっぱりいっちゃん喜んでほしいからそれは一緒に買いに行かせてくれへんか?」
「へ、あ、」
「いつもありがとう。ほんまに、毎日感謝しとるんよ。…これからも一緒におってな」

動かない指先で花束を受け取って、言葉無く泣きながら何度も頷く私に、ろしょくんは優しく笑いかけてくれる。
喜ばせるために沢山悩んでくれたところ。生徒さんにまで聞くくらい考えてくれたところ。休日が一緒になることの少ない私達だからこそのお誘い。ありがとうもごめんねも心から、目を見て言ってくれるところ。これからも一緒にいたいのは私だけではないと、きちんと言葉にしてくれるところ。 彼の、ろしょくんの、すべてが。

「ありがとう。だいすき。ずっと一緒にいようね」
「おん。どういたしまして」

どんな季節も、行事も、ろしょくんと一緒に過ごしていけることこそが、何よりの僥倖だ。

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