「ろしょくんの誕生日なので残業しません!帰ります!」

定時になった瞬間にそう言えば様々な笑みで迎えてくれた職場に私も吊られて笑う。いつもはのんびり歩く道も今日は早歩き。ロッカーで素早く着替えてお店を飛び出した。まずあそこに買い物に行って、それからあれも買って、これも買って。ケーキが崩れてしまわないようにいつもより慎重に運転をする。ろしょくんからの連絡はまだない。

「ただいま!」

もちろんおかえりの声はない。今日は卒業式だし、ろしょくんはきっと目を真っ赤にして帰ってくるのだろう。帰ってきたら蒸しタオルを渡そう、とタオルを準備しておく。手洗いうがいだけはきっちり済ませてからリビングを少し片付けてさっそく壁の飾り付け。風船を膨らませるのなんて何年ぶりだろう、といくつも息を吹き込んでいく。本当はもっと手の込んだことがしたかったけれど、急な予定変更じゃ仕方ないし、また来年やろうと我慢する。ばたばたと飾り付けを終えて、冷蔵庫の中にあるケーキとプリンを覗いてはにやにやと笑ってしまう。ろしょくんまだかなあ、と思った矢先にドアの開く音が聞こえた。

「ただいまー」
「ろしょくん!おかえり!!」

ばたばた、ぎゅ。おかえり、だいすき、だいすき。これでもかってくらいの気持ちを込めて抱きついて離れない。驚きつつもすぐに優しく受け止めてくれる彼に、私は一体何を返せているのだろうか。

「こーら、離してくれんと中入られへんやん」
「だっこで連れてってくれてもいいのにぃ」
「やったらやったで重いからやめてだのなんだの言うやんけ」

ふふふ、わかってるなあ。と彼の腕の中で笑い、それから離れて後ろに回る。リビングの扉を開いたろしょくんが、ぴた、と立ち止まってからこちらを振り返った。

「…すご、なんやこれ」
「えへへ。サプライズ!ろしょくん、お誕生日おめでとう」

色とりどりの風船や、机に置いてあるケーキとプリン、可愛く飾り付けをした壁とそっと置いてあるお手紙。そのどれもに視線を向けているのを見つめる。

「……ありがとうな。ほんまに、ありがとう」
「んふふ。どーいたしまして!今日のばんごはんはたこやきです!私が焼く!」
「おん、そしたら頼もうかな」

その前に、と蒸しタオルを渡してからたこ焼き器を取りに行けば、その間にろしょくんが部屋の写真を撮っていた。…残しておこう、という気持ちがこんなに嬉しいなんて。

「ろしょくん、ろしょくん」
「なんや」
「来年も、再来年も、ずーっと!おいわいするからね」
「…楽しみにしとる」

三月一日という春の始まりの大切な日に、あなたが生まれてきたことを奇跡だとも運命だとも思う。こうして、隣で当たり前のように過ごせることも、お誕生日を祝えることも、決してひとりではできないことだ。ろしょくんと、わたし。ふたりでいっしょだから、こんなにしあわせで。

「…好いとうよ。お前を、いっちゃん好きやと思っとる。これからもよろしくな」


私のセリフを横取りして、私より幸せそうに笑うろしょくんに、ああ、この人のことを愛しているのだなあ、と幸福に埋もれそうになりながら思うのだ。


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