「ただいま〜!」
「おかえり。おつかれさん」

いよいよ明日はろしょくんのお誕生日!と、残業に見切りをつけて早めに帰宅すれば優しく迎えてくれる愛しい恋人。勢いのままに抱きついて、それからふたりで笑い合う。ご飯を食べているあいだも、お風呂に入っているあいだも、テレビを見ているあいだも、なんだかそわそわして落ち着かない。
明日の朝が特別早い私を気遣って、ろしょくんからの眠りのお誘いを迷いながらも受け止めて、ふたりで寝室へ向かう。時刻は日付が変わるちょうど少し前。これなら起きていられそうだ。

「ろしょくん」
「ん?」
「だーいすき」
「ん、俺も」

抱き締めれば、抱き締め返してくれることの幸福さ。好きな人が自分のことを好いていてくれることのしあわせを、当たり前だと思ってしまうのが恐ろしくて確かめるように抱きしめる力を強めた。するすると耳を撫でられて、それから頬に手が添えられる。眼鏡をしていない、髪をおろしたろしょくんが甘く柔らかな表情を向けるのは、世界中のどこを探しても私だけであれ、と強く願う。

ピ、と小さくデジタル時計の音が鳴る。自分の息を吸う音が、やけに大きく感じた。

「ろしょくん!お誕生日おめでとう!」
「ん…そか、誕生日か。ありがとうな」
「いちばんにお祝いできてうれしい」
「喜んでもらえて何よりやね」
「…いちばん最後も、ちょうだいね」
「言われんくても明日も一緒に寝るんやから心配せんでええ」

私の言葉の奥の奥にある独占欲に塗れた黒い感情を、ろしょくんは見透かすだけでなくさらりと笑って受け止めてくれる。あしたも、あさっても、ろしょくんと一緒に過ごせることが、何より幸福なことを、ろしょくんは知っている?

「ほら、明日早いねんから寝なあかんよ」
「……もーちょっと」
「あかん。寝なさい」
「ケチ」
「ケチちゃうわ!……来年も、再来年も、生きとる限りはずっとお祝いしてくれるんやろ? やから今日はもう寝とき」
「………ずるいぃ」

ううう、と呻く私と、いじわるな笑みを浮かべたろしょくん。他でもないろしょくんの口から、ろしょくんが生まれた大切な日に、ずっと先の未来の話を聞けたこと。ろしょくんのお誕生日なのに、私がこんなに幸せで良いのだろうか。

「天国でも、来世でも、おいわいする…」
「はは。そら頼もしいなぁ。でも俺もきっと、そうすんのやろね。…ありがとうな、ほんまに。これからも一緒におってな」

そんなのこちらの台詞だと言うのに、ろしょくんは優しくてずるい。

「うん、ずっと一緒にいる」
「ありがとう。……おやすみ、よう眠れよ」
「おやすみなさい」

生きていても、死んでいても、ろしょくんの隣ならば幸せであるのだということを、世界できっと、ふたりだけが知っていた。

top/次の日
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -