帰り道、ふらっと本屋に立ち寄って絵本を買った。大人向け絵本、と丁寧にコーナー化されていてよかったと思う。昨夜の会話を思い出しては、我慢させてしまったんかなぁと考えてしまう。確かにここしばらく、休日が被ることもなければ二人で長い時間じゃれ合うこともなかった。自分も寂しい寂しいと思っていたものの、口に出せるほど素直ではなかった。彼女が素直でよかったと思いつつ帰宅する。玄関のドアを開ければ、ぱたぱたと駆ける足音。

「ろしょくん!おかえりなさい」
「おん。ただいま。早かったんね」
「朝も早かったからね!」

シフト制で働く彼女と教師である自分の生活リズムはあまり合わない。それでも自分達が一緒に生活しているのは、互いに互いを気遣って、知らず知らずのうちに譲り譲られを繰り返しているからだろう。キッチンから漂ういい匂いと、エプロン姿から察するに夕飯を作っている最中だったのだろう。

「いつもありがとうな」
「なーに、あらたまって!どういたしまして」
「手伝うで」
「やったー!じゃあサラダを盛りつけてください!」

カバンを置いてコートを脱いで、手洗いうがいを済ませて彼女の隣にぴったりくっついて立ってみる。鍋の中、味噌汁の濃さと格闘していた彼女の背筋がピンと伸びた。

「あまえんぼ?」
「ちゃう」
「さびしんぼ?」
「それもちゃうな」
「…すきすき病?」
「っ、ふは、なんやそれ…っくく、そやねぇ、そうかもしれん」

至極真剣な眼差しでよく分からない病の名前を出すものだから思わず笑ってしまう。俺の返事を聞いて、彼女は心底幸せだと言わんばかりの笑顔を見せた。ああ、彼女のこういう所に惹かれ、救われているのだろうな、などと。

「わたしもろしょくんすきすき病だよ」
「そらあかんな。お薬処方したらな」
「ぎゅう? ちゅう?」
「…どっちもやな」
「きゃー!ろしょくんのえっち!」
「なんでやねん」

ぎゃいぎゃいと騒ぎながらも夕飯を作り終えてテーブルに並べて揃って挨拶をする。すきすき病なぁ、と彼女の甘い言葉を胸の中で反芻した。

「お薬もらったら、もっと病気ひどなってしまいそうやなぁ」

ぽつり、こぼした言葉に彼女の箸が落ちる。危ないな、と拾おうとしたところでその腕を止められた。視線の先、彼女の顔は茹で蛸と遜色がないのではないか、というくらいに真っ赤に染っている。

「お、おだいじに、どうぞ…」

数秒時が止まって、それから耐えられなくなって吹き出した。おもろすぎる、なんやそれ、お笑い芸人とちゃうねんぞ、とひとしきり笑う。彼女は恥ずかしそうに頬を膨らませてる。

「不治の病やね」

ゆっくりと頷いた照れてすっかり大人しくなった彼女の頭を緩く撫でる。絵本の出番はしばらくなくてもよさそうやな、なんて未来のことを考えながら、冷めてしまわないうちに、と夕飯を食べ進めるのを再開した。

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