着信音で目が覚めて、慌てて携帯電話を耳にあてる。泣きそうな声をした後輩の声と、ろしょくんが見に来る足音。ああ、今日はおやすみだったのにな。
「ろしょくん、おはよ。お仕事になったから行ってくるね、昨日おべんとはつくっておいたから持ってってね」
「おはようさん。わかった、ありがとう。…大変やね。ちゃんと振り替えの休みあるん?」
「うーん、おひなまつりが終わるまではないかも」
いつもの数倍急いで支度を済ませ、朝ご飯も食べずに靴を履く。今日は、本当だったらろしょくんのお誕生日プレゼントを買いに行く予定だったのにな。当日はサプライズで、お部屋の飾り付けだってするつもりなのに。と、そこまで考えて思考を止める。今何を言ったって仕方がないし、お昼休みに時間があれば買い物に行こうと決めてろしょくんより先に家を飛び出した。行ってらっしゃいのちゅーがないと寂しいことには気づかないふりをする。
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「ただい、ま、ぁ」
ようやく仕事を終えて帰宅したものの、真っ暗な家内にろしょくんはいなかった。ろしょくんも残業なのかもしれないな、と震えない携帯電話を何度も見る。手を洗って、うがいをして、着替えを済ませて冷蔵庫の前に立つもなんだかなんのやる気も起きなくて、そのままぺたりと座り込んでしまう。洗濯だって洗い物だってしていない。お昼も食べる時間が無くて、お腹も空いている。それでも何もできる気がしなて、しおしおと悲しい気持ちでいれば、突如鳴り響く着信音。ろしょくん、と表示されたディスプレイ。
『もしもし、すまん遅なってもうたわ。今学校出るから、あと15分くらいやな』
「うん………おしごとおつかれさま」
『! …ありがとう。急いで帰るから横になっとってええよ。冷蔵庫にプリン入っとるから食っといてくれへん? 賞味期限もうすぐやねん』
「わかった」
『ん。じゃあ切るで。寝ててもええからね』
ぷつんと切れた音声と、待受の表示に戻ってしまった携帯電話。やっとの思いで冷蔵庫を開ければ、プリンの賞味期限は3日も先だ。
「ろしょくん………だいすき…」
帰ってきたら、もう一回。今度はちゃんと、聞こえるように。
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