「ありがとうございます!またお待ちしております」

パタパタと店内を駆け回る足が止まらない。朝一番で職場から電話が入り、トラブル対応の指示。起きるや否や身支度を整えて家を飛び出してきた。折角の日曜日なのに電話の音でろしょくんを起こしてしまったことが申し訳なかったが、それに謝る余裕もなかった。帰ったらちゃんと言おうと決めて業務に励む。おはようのぎゅうも行ってらっしゃいのキスもない日曜日は酷く寂しさを感じさせた。ああ、今日が忙しくて良かったなあ、なんて。

「いらっしゃいませー。…あ」
「うん?」

後輩の、なにかに気づいたような声に首を傾げて視線の先を追えば、そこには髪の毛を下ろして黒のロングコートを着た、ろしょくんがいた。

えっ、なんで? まとまらない思考と、動かない体。ぱくぱくと口を開閉させる私に、隣の後輩が笑う。照れ臭そうに後輩に向かって頭を下げたろしょくんが、柔らかな笑みを浮かべていた。

「こんにちは。いつもお世話になっとります」
「いえいえこちらこそお世話になっております!」

社交辞令の常套句を交わし合うふたりに私だけがついていけない。ちょいちょい、と手招きをされて促されるままカウンターの向こう側へ足を運べば渡されたのはうさぎの顔が描いてある手提げの可愛らしいバッグ。私がいつもお弁当を入れて持っていくものだ。

「朝飯も食わんで行ったから心配なってな。腹空いてミスでもしたらあかんやろ? ほんでまたカップラーメンとか食うんは嫌やな思て。中身は開けてからのお楽しみな」

言葉がでない。こくこくと何度も頷く私を見てろしょくんがくつくつと喉を鳴らす。

「ほなあんまりおっても邪魔んなるし帰るな。あ、車乗って帰ってもええか? 帰りは迎えに来たる」
「う、ん。ありがとう」
「ふは、なんやねん。照れとんの? あ、そうや、制服似合っとんで。遠くから見てもようわかる笑顔やったわ。午後も頑張りや」

それじゃ、と再度他の販売員に頭を下げてから帰っていくろしょくんの背中をぽかんと見つめる。言われたことを咀嚼して、飲み込んだ時にはもう既に体温が正常ではないくらいに引き上がっていた。火が出そうな程顔が赤い私を見て後輩がまた笑う。ああ、とりあえず、まだ売り切れていないプリンを取っておくことから始めようか。

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