ガチャガチャと鍵を開ける音。数秒してからもう一回同じ音がした。あれ? と思いながらもガスの火を止めて玄関まで向かえば、少し顔を怖くしたろしょくんが立っていた。

「おかえりなさい!」
「ただいま。俺の方が遅なってもうたな」
「ご飯つくって待ってました〜!」
「ん、ありがとう。でもな、鍵閉まってなかったで。危ないからちゃんと閉めなあかんやろ。な?」

まるで子供に言い聞かせるかのようにそう言われ、素直にごめんなさいと謝った。いつになっても鍵を閉める癖がつかない私に、ろしょくんはいつまでも優しく諭してくれる。忘れないように入ってすぐの壁に貼り紙でもしておこうかなぁ、と改善策を立てながら台所まで戻る。隣で手洗いうがいを済ませたあとのろしょくんが、私の頭をゆるりと撫でる。

「鍋やね」
「おなべ!」
「野菜ぎょうさん入っとるやん。キャベツも入れたん? えらいえらい」

えへへ、と甘ったるい笑いが口から漏れでて行く。本当は。ろしょくんと出会ったばかりの頃はキャベツが苦手だったが、ここ最近は美味しいと思うようにまでなっている。けれどそれを素直に言うともう褒めてくれなくなるかもしれないので内緒にしておいた。ずるい私をどうか許してね、と彼にはわかるはずもない秘密。

「ごはんも食べる?」
「ん、んー…せやけど、」
「だいじょぶ!ろしょくんはいっぱい食べて!いっぱいたべるきみがすき!」
「コマーシャル出演女優にでもなるんか」

ぽすん、と柔らかく叩かれた背中にくすくすと笑う。気を遣って言い淀んだろしょくんの気配りに嬉しくなった。そもそも沢山お米を炊いたので、食べてもらわなくては困ってしまう。いっぱい食べるろしょくんが好きなのは本当のことであるし、どうしても食べたくなったらひとくちだけもらってしまおう、なんて。

「あ、おべんとばこ出しといてね!」
「忘れとった。今日も美味かったで、ごちそうさん」
「照れますなぁ」

毎日同じやり取りをしているというのに、毎日新鮮な気持ちになるのはどうしてなんだろうか。ご飯を食べたら筋トレが待っていると思うと気が重いが、ろしょくんも一緒なら頑張れる気がして、上機嫌でお皿にお鍋の中身を盛り付けた。

top/次の日
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -