夜眠る前、ふたりでひとつのベッドに潜り込んでもう寝ましょう、という時のこと。首筋にちうう、とろしょくんがキスを落とす。明日もお互いに仕事だけれど、最近忙しくてしばらくしてなかったしな、とろしょくんに向き合おうと体制を変えたところでハッとして距離を置いた。枕を掴んで手早く間に挟み、瞳の奥で燃え滾る炎には気付かないふりをする。

「お、おやすみ」
「…もう寝るん」
「寝る。寝ます。すやすやぴーです」
「口で言うなや」

少しだけ不機嫌そうに眉を顰めてからそうっと腰に手が回る。あっという間に枕を定位置に戻されて体を引き寄せられた。だめ、だめ、だめなんだってば。と、胸板を腕で押してみるもびくともしない。

「ろ、ろしょくん、だめ」
「……気分やないん? 俺は、シたいねんけど」
「いや、あの…そ、そういう訳ではなくてですね…」
「…? 腹痛いやつか? すまん気づかんくて、しんどないか? 湯たんぽ持ってくるか? 薬は?」
「や…その、それでもない、です…」

じゃあどれやねん、と彼の視線が確かに言っている。ううう、と声を漏らして、目が合っているのが恥ずかしくなってしまって彼の胸元に頭を押し付けた。ぽんぽん、と優しく撫でられる。

「どないしたん。俺に言いたないことか?」
「んゃ…その、ふ、ふとってる、から……」
「……………………は?」

予想していたよりも数段低い彼の声に思わず体がピシりと固まった。ほーん。関係ないわ。くらいの反応が返ってくると思っていたので驚いてしまう。
まぁそもそも、私が太っていることなんて今に始まった話ではないのだが。最近職場でちょっと太った? なんて言われてしまって、落ち込む日々が続いていた。こんなからだ、ろしょくんには見せられないと思ってしまうくらいには。

「…なぁ、誰に言われたん」
「えっ」
「あんなぁ。容姿のこととやかく言うのは例え客や上司でも礼儀知らずやねん。しかもそれをお前は気にしとんのやろ? はぁー…最悪や。ほんまに。ぶん殴ってやりたいくらいやわ」
「で、でも…私が太ってるのは、わたしのせい、だし…」
「気にすんな、言いたいところやけど女の子やし言われたもんは気になってまうよな…。っし、俺が一緒に筋トレしたる」
「えっ?」
「お前のせい、って言うことは俺のせいでもあるやんか。やから一緒に頑張って見返したろ!な?」

斜め上の発言に思考が追いつかず、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。目の前のろしょくんは先程までの夜のムードをすっかりどこかへ置いてきてしまったようで、やると決めたからには徹底的にやるぞ、と燃えている。ちょ、ちょっと待って。

「俺は例えお前がどんなんなっても世界で一番愛しとるけどな、」
「ひ、」
「可愛なるために、俺のために努力してくれるのはめちゃくちゃ嬉しいで。明日から頑張ろな?」

有無を言わさぬ態度に恐る恐る頷けば、ぎゅうう、と抱きしめられた後に額にキスをされ、それからあっさりおやすみの挨拶。数分後すぐに寝息が聞こえてきて、ようやく事態を飲み込む。明日からは大変な日々になるだろうけれど、私のことをまるで自分のことのように言ってくれたことが嬉しくて、とりあえず今日は良い夢が見れそうだ。

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