「何ぶすくれとんねん」
「…べっつにぃ」
「別にちゃうわ。ちゃんと言わんとわからへんからな」

台所でコーヒーをふたつ淹れながら私に話しかけるろしょくんにそっぽを向いて可愛くない返事をする。傍にあったクッションを抱きしめれば彼のやさしいにおいがしてすぐに手放した。疑問符を浮かべつつも本気で怒っている訳じゃないことをわかっているのか、特にそれ以上深く言及してくることもない。私の機嫌が悪いのは、決してろしょくんのせいではないのだけれど、彼のせいにしたくなってしまう醜い心を見透かされたくなくて目を合わせられない。ろしょくんの鞄の中、可愛らしいピンク色の便箋。盧笙先生へ、と丸い文字で書かれた手紙。あんなのラブレター以外何があるというんだ。

「知ってたけどさ」
「あ?何がや」
「ろしょくんがモテモテなことくらい知ってましたけど!!!」

八つ当たりだ。完全に。自分の器が小さすぎて嫌になる。ろしょくんの顔を見るのが怖くて寝室まで駆けてベッドに飛び込んだ。

知っていた。ろしょくんが老若男女問わず人気があること。それは彼が本当に素敵な人だからだ。
私はもうひとつ知っている。そんな素敵な彼の彼女が私であるということ。ろしょくんが特別に好いてくれてるのは、自分だということ。

「オイこらなに寝ようとしとんねん!」
「もう寝るもん!ろしょくんはテレビ見てなよ!わー眠い!おやすみー!!!」
「おっまえ…こっち見ぃ」
「ぐうぐう。もう寝てまーす」

おら!と荒っぽい言葉と優しい声色。べりべりと布団を引き剥がされて無理やり視線がかち合う。あ、やばい、泣きそうだ。

「ぷっ…。なんやのその顔、泣きそうやん」
「なに笑ってんの!可愛い彼女が泣きそうなのに!!」
「おーおー、そやねぇ。俺のかっわええ彼女がなあ、これまたかわええかわええやきもち妬いとってなあ、かわいすぎて笑ってまうねんよ」
「っ、な」
「ぶすくれてないでなんべんでも言うたらええやん。ぜぇんぶちゃんと返したるで。なぁ、」
名前を呼ばれる。涙がこぼれる。体温が上がる。
「好きや。…お前だけやぞ」

私の涙を舐めとって、ろしょくんが上機嫌に笑う。この笑顔と言葉を知っているのは自分だけなのだと思うと、さらに涙があふれた。

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