「ろしょくん」
口をついてはきだされるきみの名前に違和感がなくなるくらいには同じ時を過ごしている。私が呼ぶと、彼のきれいなつり目がゆるゆると形を変えるのがいっとう好きだった。
「ん、なあに」
しあわせだ、と言わんばかりに甘くはきだされる返事。私はこれに、随分心酔しきってしまっている。
グラスコードに手を伸ばして、眼鏡がずれてしまわないようにそっとつまむ。その手に優しく彼の手が重なり、それから「こら」と優しく空気が震えた。頬に手が添えられて、親指で瞼をなぞられる。アイシャドウを絡めとって、グリッターできらきらした彼の指先。私の温度と、不安と、それから恋心が乗っている。
「化粧落としてはよ寝なあかんね」
「…うん」
「待っとるし、手伝ったるから」
「ありがとう」
「おん。どういたしまして。洗面所行こか」
「ろしょくん」
「ふは、なあに」
まるで私が、名前を呼ぶことを知っていたかのように彼が笑う。
「…なんもない」
「ん、そか。抱っこしたる」
彼の口角が喜びを抑えきれていないのを見て、私のものも同じようになっていく。ぎゅう、と抱きしめられて、それから数秒、彼のにおい。ああ、彼と共に生きているのだ、などと。
「心配せんでもどこにも行かんよ。俺がお前のこと、離しとうないねんな」
「…うん」
よっしゃ、顔洗おか、と彼が私を持ち上げる。言葉なんてなくても、彼の隣にいて良いのだと、他でもない彼だけが、私を知っている。

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