「すまん、遅なってもうた、わ」

彼の言葉が不自然な箇所で途切れる。改札前、オオサカよりも多い人だかり。泣いている私を見て固まるろしょくん。

「ん」

言葉は要らなかった。

ぎゅうぎゅうと痛いくらいに抱きしめられるからだ。二人分の荷物もまとめて抱きしめられて、ぼろぼろと涙が止まらなくなる。ぽんぽん、と優しく頭を撫でた後に背中に回る筋肉質の腕。体温がゼロ距離で感じられるというのに、こんなに、こんなに、さびしい。

「ここにおるよ」

きっと、私のすべてを見透かせる彼の、最善の言葉。ほんとうに? と疑うことをわかっていて、ゼロ距離を続ける彼は優しい。するすると指を辿られ、きゅ、と指先が絡み合う。それからもう一度「ここにおるから」と発する彼は、確かに私の知っているろしょくんで。

「…おうちかえったら、プリンつくるね」
「おん、ありがとう。どんな高級なものよりも、ファンの子や生徒にもらうものよりも、お前からのがいっちゃん嬉しいよ」
「カラメル、焦げても?」
「当たり前やん。関係あらへん。なぁ、好きや。どこにも行かんで」

どこにも行って欲しくないのは私の方なのに、ろしょくんは優しいから、こうして私を縛り付けてくれる。言いたくても言えない気持ちを汲み取って、いつだって私に正解をくれる。百点満点の解答に、私はいつも救われている。

「一泊するつもりやったけど、最終の新幹線で帰ろか。帰ったら味噌汁つくってぇや」
「うん…」
「昼まで寝てな、部屋の模様替えでもしよか? ああ、そうだ。欲しがってたサボテン買いに行こか。夕方にいつもの喫茶店でプリンとcake食おな」
「…ろしょくん」
「おん、なぁに。あ、俺も好きやで」
「………ずるい、」
「はは、ずるないよ。俺のラジオ聞いて寂しくなって、泣いてまうお前の方がずるいわ。俺のことだいすき〜て言うとるようなもんやん? 大丈夫や。ここにおる。お前の傍に、ずっとおるから」

髪を一束掬われて、そっと唇を寄せられる。それからレンズ越しの瞳と視線がかち合って、ふんわりと彼が笑う。

「いっしょに帰ろ。俺達の家に」

ああ、心底、心底好きだと、今日も、明日も、明後日も、これから先も、ずっと。

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