「…あれ」

休日、ろしょくんを見送ってから家の掃除をしている時にぽつん、とミニテーブルの上に残されている分厚くなったクリアファイルを発見した。昨夜の会話の記憶が一気に引き出され、慌ててそれを鞄に入れて上着を羽織る。今日は午後からお偉いさん方と話さなあかんねんな、重い表情で話していた彼を思い出したからだ。ぺったんこの靴を即座に選び鍵を閉めるのだけは忘れずに家を飛び出した。今から急いでいけば、きっとお昼やすみには間に合うだろう。そうして電車に乗ったところで、今度は自分が携帯電話を忘れてきたことに気づく。しくった…!これじゃあろしょくんに連絡できない…!



「ついちゃった…」

ひとつの連絡も入れられないままろしょくんが先生をしている学校へ到着してしまった。正門の前でうろうろおどおどしてみるも、登下校の時間ではないので人がいるわけもない。正面玄関ではなく裏口から入るのが正解なんだろうけれど、それがどこかも分からない。はやくしなくちゃお昼休みが終わってしまうだろう。ああ、どうしよう。

「こんにちはー。お姉さん、なんか探しとります?」
「えっ、わあ、こんにちは。えっと…ろしょく……躑躅森先生に用事があって…」
「ろしょーせんせ? ちょと待っとってね」

そう言って携帯電話の画面をすいすいと動かしどこかへ連絡し始める学ランを身にまとった大人しそうな男子生徒をハラハラしながら見守る。もう遅いけど、もしかしたら忘れ物を届けられるのって生徒に知られたらまずいのではないだろうか。ああでも、

「ん。今来てくれると思うで。したら俺これから病院行かなあかんから行きますね」
「あ、ありがとうございます…!」
「ええねんええねん。ろしょーせんせにはほんまいつも世話になっとるんよ。…おねーさん、彼女やろ? 他の生徒には内緒にしたったりますね」

年相応のしてやったりとでも言わんばかりの表情を浮かべて男子生徒が去っていくのをぽかんと見つめる。ろしょくんへ。彼女がいるのバレちゃいました。ごめんなさい。

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