「ほら、ハンカチ持ったん?」
「んー…たぶん」
「ティッシュはここはいっとるからね。いつも使うとるリップはここやぞ」
「うん、ありがと」
「飲まなあかん薬はここ。おなかいたい〜なったらこれ飲むんやぞ。鼻水の薬と似てるから注意せなあかんよ」
「ふふ、ろしょくんったら心配性!」
「アホ。忘れ物したら困るのお前やんか」
出張前の持ち物確認。向かう私より念入りに準備と確認をするろしょくんを見るのはもう何回目だろうか。私より私の鞄の中身に詳しい彼にじわりじわりと幸福が喉元から這い出てくる。たとえ一泊でも彼と離れるのは寂しいが、この姿が見られるなら悪くないかもなんて思っている自分も確かにいて。財布と携帯電話と仕事の道具だけ持てばどうとでもなると言うのに、行く度にろしょくんはこうして私を心配してくれる。
「ん。多分大丈夫やな。気ぃつけて行ってらっしゃい」
「……ちゅーは?」
「…行かせたないねん」
額にかかる前髪そっとよけて、ちゅ、と触れる唇。まだセットされていない彼の前髪をよけて、背伸びをして同じことをしかえした。どちらかともなく、名残惜しい、とでも言わんばかりに視線が絡まる。きゅう、と喉が締まる感覚。
「ろしょくん、さびし〜て顔してる」
「…お前もや」
「帰ってきたらハンバーグいっしょにつくりたいな」
「わかった。材料買ってまっとるね」
うん、と言う前に玄関を出る。これ以上は時間が許してくれないからだ。ろしょくんも外まで見送ることはしない。してしまえばきっと、行けなくなることを互いにわかっていた。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ろしょくんが鞄に詰めてくれた好きの結晶を集めながら、彼が隣にいない数日を耐え凌ごう。
帰ったら一緒にハンバーグを食べるんだ!
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