「なん。まーた泣いとんの」
押し入れの中、それも隅の方。ドアを閉め切って膝を抱えていればそっと差し込んだ光。それから彼のやわらかな声と、次いで聞こえる息の音。
「ほら、でてきや。おかえりーってしてくれないん?」
やさしく、やさしく、私の手を引き、いつもはつり上がっている目元をゆるゆると下げて 彼が言う。
押し入れからゆっくり出て、電気の眩しさに目を細めながら彼がまだコートを着ていることに気づく。直に指先に触れればつめたい。
もぞもぞと彼に抱きついて、まだ外のにおいがする空気を吸い込んだ。ぽん、と優しい手のひらが頭の上に乗る。
「おかえりなさい…」
「ん、ただいま。待っとってくれてありがとうな」
「ごはん、つくってない…あらいものも、せんたくも…」
「ええよ。いつもやってもらっとるのは俺なんやし、気にすること1個もあらへん。ほんまにいつもありがとうな」
「でも…」
「ふは、なんやねん。でも〜言う元気あって良かったわ。一緒に今からやろか。な?」
「…うん」
ゆっくりふたりで立ち上がって、彼の体温が一時離れてコートをかける動作を見つめる。数秒しないうちにゆるりと指と指が絡まって、手を引かれて台所へ。ふたり分のお弁当の包みをほどきながら、今日も美味しかったと彼が笑う。
「明日は早く帰ってこれそうやから、飯でも食い行こか?」
「ん…」
「せっかくやからデザートのうまいところ行こな。あ、言うの忘れとった。今日も一日おつかれさん」
「ろしょくん、も…」
「ふふ、おおきに」
シンクの中で泡と遊びながら、彼につられて頬が緩む。私の笑った顔を見て、ろしょくんは安心したように息を吐く。
「笑っとる顔がいっちゃんかわええよ」
そう言うろしょくんの、その表情が一番かっこよく見えた。

top/次の日
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -