「おじゃまもの、退散〜っ!なまえちゃん、きょうはゆ〜〜〜っくりやすんでね!」
「はい、すいません。ありがとうございました、本当に…」
「何回も聞いたってば!ナツちゃん、アキくん、またね〜!」
「帝統。順序だけは正しくしなさいよ」
「うるせえ!そういうんじゃねーっつの!」

騒がしく去っていたあめむらさんと夢野さんを見送って、二週間ぶりの我が家へ帰る。家の中は空き巣に入られたような荒れようであり頭を抱えたくなったが、私の両手は夏と秋が塞いでいたのでそれは叶わなかった。何から片付ければ、と思ったところで帝統さんが私の名前を大きな声で呼ぶ。

「ここ、座れ。ナツもアキも」
「はーい」「はーい!」「はい…」
「まず、遅くなって悪かった。あと、お前らのかーちゃんのボイレコ勝手に聞いちまった…わりぃ」
「そんな、謝るのは私の方です!関係ない帝統さんを巻き込んで、お二方にも迷惑をかけましたし、アキの面倒まで見てもらって…」
「いーんだよ俺は別に。アイツらもいいんだよ、俺の仲間なんだから。つかよ……関係ないって、ンだよ」

まるでいたずらを叱られた秋のような表情をした帝統さんに驚いて言葉を失っていれば、夏と秋が声を上げて笑っていた。私だけが話にも空気にもついていけず。事態もうまく飲み込めない。

「中王区でよ…アキが言ってたの、聞いてたか?」
「え、あ、はい」
「…俺は。安定した稼ぎもねえし、ギャンブルはやめねえし、スリルを求めるのも変わんねえ」
帝統さんの真剣な表情に心臓がばくばくと音を立てる。夏が私の手を握り、秋が膝の上に座る。
「正直この先の事なんてわかんねぇし、考えたくもねぇ。でも、」
「だいすさん、」
「ンだよ。黙って聞いとけ。…おい、なまえ。俺もこの家に帰ってきていいか?」

花が咲いたように夏が嬉しそうに笑い、秋が帝統さんに飛びついた。人懐こい笑みを浮かべながら帝統さんがそれを受け止めて、秋の頭をわしゃわしゃと撫でている。ああ、私も言わなくちゃ。幸福の日々に、あなたがいないと駄目なこと。

「…こんな山奥のボロ屋でよければ、ぜひ」
「………おう。さんきゅな」
「嬉しいです。私…その、帝統さんのことが…す」「あああ!言うな!言うんじゃねえ!!」

言いかけたところで帝統さんに遮られ、口を閉じる。ボロボロの家の中、荒れ果てた部屋の中心で四人で大きな声を上げて笑う。私の世界を広げた帝統さんがこの家を帰る場所に選んでくれたことの、僥倖といったら。手の平におさまるだけのしあわせが、ぼろぼろとこぼれ落ちるくらいあふれていて、それが泣くほど嬉しい。

「おい、泣くなよ」
「むりです…うれしい…」
「言っとくけど、俺はナツとアキの父親にはなれねーからな」
「おにぃちゃんだもんね!」「ねー!」
「おう。………なぁ、なまえ。その…おかえり」
「うん、ただいま、帝統さん」

top/


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -