ぎゅうぎゅうと抱き着いてくる幼い双子と、目の前で驚いたような視線を向ける女。上機嫌そうな乱数の顔と、へぇ、とでも言いたげな幻太郎。何が起こってんだよ、と頭を掻く。視線の先には、1ヵ月前に偶然世話になった女が立ち尽くしていた。

「帝統さん、」

みょうじなまえ。高2。イケブクロの高校に通っていて、弟妹の夏、秋と山奥で3人暮らし。母親がヒプノシスマイクの実験で死んで、父親はギャンブルに溺れて自殺。お人好しで家族想い。意外と単純で、気を許した奴への危機管理能力が低い。料理がうまい。俺が知っているのはこの程度だ。

「あの…これ、お返しします。それから、誤解を解きたくて」

これ、と言って差し出されたのは、あの日確かに俺が置いて出てきた五千円札だった。律義なのは良いことだが、貰えるものは貰っておくべきだと思うし、何よりそれは飯代も兼ねている。返されてもなァ、と渋っていれば幻太郎の物珍しそうな視線が飛んできた。

「帝統が…金を受け取らない…だと!?」
「あはは!幻太郎ってば、迫真の演技ってやつ〜!」

俺となまえの間に流れる微妙な空気なんて気にも留めず、普段通りの会話をする2人に少しだけ救われたような気がした。小さく意識した呼吸を繰り返し、なまえに向き直る。秋の体を抱き上げて、夏と手を繋いでソファに座り込んだ。反対側のソファになまえを座らせる。机の上に置いてある乱数がよく使っている資料に書かれている 有栖川帝統さんの居場所を教えてほしい、の几帳面な文字に心がざわついた。

「ンだよ、誤解って」
「私は…。いえ、夏も秋もですが、父のことを憎いとは思っていません。思ったことが無いと言えば、嘘になるかもしれませんが…それでも、記憶の中の父はいつだって私達に優しい」
「おねぇちゃん?」
「帝統さんのこと勝手に調べさせていただきました。ギャンブルに懸ける心意気、素直に尊敬します。帝統さんが生涯を懸けているものに、嫌悪感を抱いているような発言をしてしまったこと、本当に申し訳ないと思っています」
「オイオイ、違ぇだろ」
「違いません。違っていたらきっと帝統さんはまたうちに遊びに来てくれていたはずです。夏も秋も、約束したのにと何度も嘆いていました。私は、帝統さんが易々と約束を破るような人じゃないことを知ってます」
「…あのなぁ、」

はああ、とでかい溜め息が口から漏れる。人を疑うことを知らないような真っ直ぐな視線がやけに自分には毒に思えた。泣きそうな夏と秋に乱数が飴を差し出しているのが見えて、手のひらの中にいくつか転がっていたそれを一つつまんで乱雑に包装をといて口に放り込む。ガリッ、と音がしてたちまち小さくなっていく欠片の味がわからなかった。

「なまえのそーゆートコ、俺は嫌いじゃねえけどよ。直した方がいいと思うぜ。自分で言うのもおかしな話だけどよぉ、ギャンブラーってのはロクなもんじゃねえ」
「吾輩もそう思うのだ〜」
「アハッ!帝統ってば、知ってたんだ!」
「だああ、ややこしくなるから黙っとけって!あー、だから!俺はお前が言うような大層ご立派なニンゲンじゃねえってことだよ」

そう言えば、むっと頬を膨らませるなまえ。それを見てけらけらと笑う乱数。兎にも角にも、この状況は気に食わねえ。

「帝統さん!私は…んぐっ、」
「黙っとけ。夏と秋に聞かせるような話じゃねえだろうが!……ったく。姉ちゃんなんだからしっかりしろよな。お前の大事な家族なんだろ」
「…ダイスってば、いがーい。子供は好きじゃないと思ってた」

乱数の発言を無視して、なまえの手を取り立ち上がる。右手は秋を抱えていて、左手はなまえと。ぶすくれた夏の手をなまえの左手と繋がせた。

「乱数!幻太郎!こいつの家行ってくるわ」
「…へぇ。行ってらっしゃい。土産はなんでしょうかねえ」
「いってらっしゃ〜い!なまえちゃん、ダイスに変なコトされたらあとで教えてねっ」
「えっあっ、はい」
「しねえよ!お前も返事してんじゃねえ!」

握っている手にぐっと力を入れれば、なまえが返事をする代わりに夏と秋が笑った。適当にタクシーを停めて乗り込み、なまえに住所を伝えさせる。こっから五千円で足りるかどうかは知ったことじゃねえ。

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