思えば最初から、それこそこの恋を手に入れた瞬間から間違っていたのかもしれない。きっかけは本当に些細なことで、どこにでもあるような日常の中でなまえに出会った。自分の生活は決してありふれているとは言えないが、ボーダーという場から離れている大学生としての自分の時に、彼女が日常の中にいればと望んでしまったことが結果的にはこんなことになってしまっている。ひとりのひとを愛することが許されないとは思わなかった。

「…言いにくいんだけど、その」

根付さんが非常に気まずそうな顔で俺に話しかけてきた出来事を今でも鮮明に覚えている。急に呼び出されたかと思えば雑誌を見せられ、そうしてあの台詞だ。俺となまえがまるでなにか悪いことをしたかのような記事に、根付さんの表情に憤りを感じた。それと同時になまえのことがすごく心配になった。彼女の生活に支障がでないはずもない取り上げられ方だったから。今すぐにでも飛び出して迎えに行きたい衝動を抑えて根付さんの言葉を待つ。

「嵐山くん、この女性との交際は君にとってマイナスだ。それはわかるね?」

口を開いたのは城戸さんだった。まるで当たり前のことですとでも言わんばかりの表情につい腕に力がこもる。何を言われているかわからなかった。なまえと付き合っていることが俺にとってマイナス? そんなことがあるわけない。なまえのおかげで俺はこんなに幸せで、なまえがいるから頑張れているんだ。それを、マイナスだなんて。

「わかりません。俺はなまえとの交際を悪いことだとは思えません」
「それはボーダー外の嵐山准としての意見にすぎない」
「城戸さん、それは少し言いすぎだ」
「なら忍田くん 君が彼に言いたまえ」

こうなることが予想できなかったわけではない。それもすべて覚悟の上だったし、このことは彼女もよくわかっていた。だがマイナスと言われることが気に食わない。交際をやめろと言われることが嫌だ。…けれど従うしかないということもわかる。俺はボーダーという組織に勤めている一隊員でしかなく、ひとつの駒でしかない。堂々と駄々をこねられるほど子供でもない。まるですべてが仕組まれていたかのようだ。

「君が認めないなら、彼女に直接言うしかなくなるが」
「!」
「よく考えて行動をしなさい。君にはいつも重要な役目をこなしてもらって助かっているんだ。できるだけ嫌がることはしたくない」

彼女を失うくらいなら、いっそ、俺は。



「あーらしやま」
「………迅」

あれからいくつか話をして、結局何も進まないまま彼女にだけはなにもしないでくれと半ば怒鳴るように言いつけてひとりラウンジで落ち込んでいた。もっと発言に気を付けなければならなかった。そもそも報道される時点で警戒が足りていなかった。自分は大人になりきれない唯のちいさなこどもだったのだ。

「沈んでるねえ」
「自分がこんなに子供だったとは知らなくて驚いているんだ」
「はは、何言ってんの。俺も嵐山もまだ19歳だよ? 未成年だし子供だって〜」

へらへらと笑いながらいつもの流れでぼんち揚げを差し出されるのでひとつ手に取って口へ運ぶ。見えていて来たのだろうなあ。迅は大人だ。年齢は変わらないのに、俺より遥かに大人だ。それがいつだって羨ましくて、すこし悲しい。

「あんまり言えることは多くないけどさ なるようにしかなんないと思うよ、俺は」
「なるようにしか…」
「後悔だけはしないようにね」

それだけ言い残して迅はどこかへ行ってしまった。あいつの背中がごめんねと叫んでいるように見えたから俺は全てが終わってからきちんと迅にお礼を言おうと決めた。

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