何回も座り直してみたり、お茶の入っているコップに手を当ててみたり膝においてみたり。とにもかくにもそわそわしながら見慣れない空間で過ごしていた。綾辻ちゃんが暇つぶしでもと置いて行ってくれた嵐山隊のランク戦データとやらを見ながら時計を何度も確認する。本当にお邪魔して良かったのかな、と不安に包まれた。

准くんに私との関係を隊のみんなに説明してもいいかと問われたのは記憶に新しい。ニュースや雑誌に報道される前から彼女がいるということは言っていたらしいがあまり詳しくは話していない。これから先のことも含めて知っていてほしいんだ、だめか? と不安そうに聞いてきた准くんは紛れもなく嵐山隊の隊長だった。私がいいよと頷けば彼はあの綺麗な瞳を輝かせて爽やかな笑みでありがとう!と言い放った。それに少しも寂しさを感じなかったと言えば嘘になる。けれど言葉にして伝えられるほど私は子供じゃなかった。准くんみたいに素直にはなれないなあ、と彼にまた焦がれてしまいもした。相当な覚悟をしたつもりだったけれどまだまだ甘かったようだと思ったのだった。

「あ、准くん…あぶな わあ、充くんナイスフォロー」

データを見ながらついひとりごとが漏れていて慌てて口を塞ぐ。ボーダーの戦闘は機密事項だって前に友人が言っていたのを思い出してまたひとつ良いのかなあと思う。でも、こんなに格好良い准くんを見られたから良いことにしておきたい。嵐山隊のみんなは私にとても優しくしてくれた。もうすぐ…正確に言えばあと3日で別れなくてはいけない私達に気を遣ってこうして私を隊室まで呼んでくれたり、今日の取材はできるだけはやく終わらせますね!と笑顔で言ってくれたり美味しいお茶やお菓子を用意してくれたり私の知らない准くんの話をたくさんしてくれた。これは准くんが自慢したくなる気持ちもわかるなあ、と。

「なまえ!終わったぞ」
「おつかれさま、准くん。みんなもおつかれさまです」

そう言えば賢くんが元気に取材の内容を説明してくれてそれを呆れたように木虎ちゃんが見ていた。綾辻ちゃんがお茶のおかわりをいれてくれて、充くんは私が見ていたデータが映っているモニターを一緒に見て解説してくれる。あったかくて、優しくて、ついつい私の口から情けない言葉が漏れてしまった。

「別れたくない、なあ」

幸いボリュームが小さかったのですぐ傍にいた充くんにしか聞こえていなかったようだ。慌ててごめん、と今度は意図的に充くんにしか聞こえない音量で言えばしばし無言でじっと見つめられたあと「いいえ。内緒にしておきますね」と柔らかな笑みで言われる。私がお礼を言い切る前に充くんが私の言葉を遮った。

「嵐山さん、書類はもう提出だけですし今日はもう任務もありません。なまえさんとの時間を大切にしてください」

本当に、なんてよくできた子で、なんて温かい空間なのかと泣きそうになったのは秘密だ。准くんがこんなに温かな空間をつくったのだと思えば、なんだか私まで得意気な気分になる。それが例え馬鹿で滑稽なことだとわかっていても。

みんなが呼んでくれたことでひとつわかったことがある。それはボーダーのA級5位嵐山隊隊長嵐山准は、私というちっぽけな存在でなんか失われるはずもないということだ。

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