朝からニュースでずっと話題になっていることがわたしの頭を埋め尽くしては真っ黒に塗り潰していく。わがままを言うならばこういうことは一番最初に彼の口から聞きたかったものだ。いつかくるとわかっていて、それでも目を逸らして逃げ続けた。彼ならばこんな状況を吹き飛ばしてくれるのではないかと、心のどこかで思ってやめることができなかったのだ。
馬鹿だ、わたし。彼は三門市のヒーローであって私のヒーローではない。近界民から誰かの世界を救うことはできても、世間から私たちの関係を救うことは彼にはできない。もちろん、私にだってできるはずがない。きっと彼は今対応に追われながらそれでも私のことを庇って、私のことを考えてくれて、最後まで戦ってくれて、いるのだろう。それはとっても嬉しいことなのにどうして涙が止まらないのだろうね。

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「こんにちは」

ぺこりと頭を下げて挨拶をする彼女から感じられるのは清潔感や礼儀の正しさなど良い方向のものばかりでなんだか申し訳なくなる。白を基調とした控えめなワンピースは驚くほどこの組織に似合わない。嫌な顔一つせず促されるまま椅子に座り、柔らかな雰囲気で彼女は私たちへと視線を送る。そこにはやっぱり悪意など到底感じられなく、瞳の奥底で揺れる深い哀しみに我々はやはり申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「…それじゃあみょうじさんが嵐山くんと交際をしているのは間違いではないんだね?」
「間違いありません。私は准くんとお付き合いをさせていただいております」

柔らかい物腰にこれなら嵐山が惚れるのも無理はないだろうなと緩く考える。話を聞いたときはあの嵐山に、と驚いたものだった。嵐山自身がいちばんわかっているのだろうからあまり口出しはしたくないというのが上層部全員の本音だ。すべてをわかっていて、それでもすきだったのだろう。もう19にもなるひとりの男の恋愛を邪魔することは決して気持ちの良いことではない。ボーダーの顔だなんて重苦しい言葉を背負わせているのは紛れもない我々なのに、そう思うことすら最低なことなのかもしれない。

「呼ばれた理由はわかって…ますよね?」
「はい。准くんとの交際をやめてほしい、ってことですよね」

苦笑をこぼしながら根付さんに問う姿は、既に全てを諦めた表情だった。嵐山もわかっていたように彼女だってわかっていたのだろう。嵐山が彼女との関係を終わらせる気は毛頭ないと言い張った今、我々の頼みはこの幼き少女だけだ。

「簡潔に言うとそうなりますねぇ…。その、言いにくいのですが、」
「准くん、きっと諦めないって言いましたよね。すみません。1度言い始めたら結構頑固なんです」
「ああ、うん、そう…。それで、その…」
「私から准くんに言えば良いのですよね。わかっています。心配しなくてもみなさんが思うような結末にはさせません」

だから安心してください、と続ける声色は震えている。私個人としては彼女の事を助けてやりたい。どうかボーダーにとやかくなにかを言われることもなく、嵐山の女性ファンの方々になにかを言われることもなく、幸せに過ごしていてほしい。そうさせなくするのはどうしようもなく、我々なのだけれど。
彼女と嵐山の間にどのような信頼関係があるかはわからないが、嵐山の反応と彼女の対応の仕方がそれを語っている。大切なのだろう。譲れないのだろう。相手の事を一番に考えるからこそ意見が食い違うのだろう。正解を選んだって不正解になってしまうような世の中で、彼女達は緩やかに殺されていくのか、と。

「きちんとお話してみます。ですが、少し時間をくださいますか?」
「どれくらいだ」
「長くとはいいません。…一週間もいただけたらじゅうぶんです」
「できるだけ早い方が我々も、嵐山くんも助かるだろう。それだけだ。忍田くん、」
「はい。みょうじさん、行こうか」

どこで誰に出会うかわからないから、と隊室に半ば強制的に閉じ込めている嵐山の元へと向かう。彼女にこの話をすることも、彼女をボーダーに連れてくるのも嫌がった嵐山の反応が少し恐ろしい。普段から自分の事で怒ることを滅多にしないやつがあんなに取り乱したのを初めて見た。安心してくださいといった彼女を信じられないわけではないがそれでもやはり不安は残る。

「ひとりで大丈夫です。…准くんとふたりでおはなしさせてください」

隊室の前でそう言われてしまえば返す言葉もなく、すまないとこぼれでた本音を口にしてその場を後にした。

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