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「さすがにやばいでしょ」

瞳を赤く潤ませて見つめる彼女を見下ろしながらエレンは呟いた。
彼女の両手が胸板に添えられ、体重をかけられる。
華奢な肩を掴んで静止させようとするが、自分の手にそれほど力が入っていないことにエレンはとうに気がついていた。

「ここまで来てそれを言うの?」

口を尖らせた彼女は年上とは思えないほど幼い。
同じ職場でパート勤務の彼女、nameは5つ上の人妻。
そう。今日これから一線を超えたら、自分たちは所謂‘’不倫関係’’になるのだ。

「旦那さんは本当にいいの?」
「…やめてよ、そうやって現実に戻さないで」

nameの潤んだ瞳に、かすかに拗ねた色が見えた。
わかっている。彼女の心の傷は。
だからこそ俺たちは今日まで距離を縮めて、今まさに一線を越えようとしているのだ。
最後の理性に語りかけたところで、本来生じるべき迷いは、彼女には生まれない。

「ごめん、怒らないで」

エレンはやや困ったように笑うと、nameを抱き、後頭部をそっと撫でた。
至近距離でnameがとびきり甘えた表情を見せる。
ああ、とエレンは内心で呟いた。

あの夜からずっとこうしたかった。
普段は明るいのにどこか影があって、どういう女性なのか気になっていた。
もちろん人妻だということは薬指を見て知っていたけれど、それでも近づきたかった。
だめもとで酒に誘った時、二つ返事でOKをもらった時はかなり意外だったが嬉しかった。

談笑するだけの楽しい夜を過ごし、冗談を言えるようにもなった。
そんな3回目の夜、彼女が泣いた。


「旦那ともこんな風に笑い合ってた。結婚する前も、結婚してからも。でも、まがいモノだった」


大粒の涙が溢れるのを見て事情を察した。
同時に、なんとも言えぬ感情が生まれた。
彼女が自分と過ごしたのは、俺に気があったからじゃない。
こうでもしないと保てないものがあったのだろう。
きっかけを作ったのが俺だったというだけだ。

「ごめんね」

両手で顔を覆いながら涙を流し続けるnameの髪に触れ、そっと撫でた。
すべてを理解してもエレンは手を止めなかった。
抱きしめたい衝動を抑え、「またご飯行ってください」とだけ伝えた。

彼女がそうならば、俺だってずるい。

あの夜泣きじゃくっていた時よりも、ずっと甘えた表情を見せるようになった目の前のnameと見つめ合いながら、エレンは自分の愚かさを痛感していた。
年下らしくがっついたら、彼女はここまで自分を欲しがらなかったかもしれない。
本来はこうしたことに慣れている女性ではないことは、普段の振る舞いでわかっていたからだ。
悲しさが、寂しさが。俺のずるさがnameをこうさせた。

「おいで?」

眉を上げながら語りかけるように言う。
nameは暫し瞳を揺らしたあと、背伸びをしてエレンの唇に自身の唇を重ねた。
触れ合った瞬間、電流が体中を駆け巡るのをエレンは感じた。
鼻から息が漏れ、彼女を掻き抱くように手が蠢く。
応えるようにnameもエレンの首に腕を回した。
深いキスを何度も何度も重ねていく。
そうだ。こうして夢中になって、俺にはまればいい。
俺はいくらでも手招きする。

「nameさん、俺だけ見てよ」

薄目を開けると、nameの目尻から涙が流れていた。

「旦那のことなんて考えないで」

エレンは思考と手つきに余裕がなくなっていくのを自覚しつつ止められなかった。
あの夜からずっとずっと欲しかった。
毎夜、忘れられなくなるほどに。

「だ…め」

nameが漏らした口だけの抵抗を、エレンは舐めとって溶かしていった。
明日になれば後悔するだろうか?
それを考えて冷静になれるほど、俺はまだ大人じゃない。





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