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リヴァイ班に引き抜かれて早半年。
初めはどうして私が?と戸惑ったけど、同期のペトラやオルオもいたお陰ですぐに馴染むことができて、何とかついていけている。


「あれ?兵長どこへ?」
「少し飲みすぎた。外の空気を吸ってくる」

飲みすぎたと言いつつ、全く表情の変わっていないリヴァイは安定した足取りで外へと出ていった。
火照った顔のペトラがそれを見送っている。
今夜は班のみんなで街へと飲みに来ていた。
当初、こういう場に兵長は来ないのではと思ったが、彼は意外と班員との親睦を大切にする上官のようで、本日で3回目の飲み会も無事全員参加となっていた。

ペトラが赤くなっているのは酒のせいか、それとも?
何となしに彼女を見ながらジョッキを煽る。
兵士の私達に可愛らしい甘いカクテルなんて似合わない。

「ペトラは兵長のことが好きなの?」
「えっ!?」

何気なく聞いた私の質問は彼女にとって爆弾発言だったようで、ぽーっとしていたペトラは慌てて周りを確認する。
向かいに座っている男性陣は盛り上がっていてこちらの話は聞こえなかったようだ。
ほっとしてペトラは胸をなで下ろす。
そして、ひそひそと私に話しかけてきた。

「name、なに突然っ」
「ごめん、何となくそう思って…」
「…そんなにわかりやすかった?」
「うん、割とね」

火照った頬を冷ますように両手を当ててペトラはため息をつく。
憂う表情は恋する乙女そのもので、女の私から見ても可愛い。
私は少しからかうようににんまり笑ってこの話題を広げてみることにした。

「コホン、えー好きになったきっかけは?」
「name…あんた楽しんでるでしょ」
「いいからいいから」
「…初めは純粋に尊敬してただけ。でも、同じ班になって過ごすうちにいつのまにか…」
「なるほどぉ、上司と部下あるあるって感じですねえ」
「もう、name!」
「あはは、ごめんごめん」

睨んできたペトラに笑いながら謝る。
ちょっと茶化しすぎちゃったかな。

「でも、何か大きなきっかけがあるのかと思った。ペトラってよく兵長と一緒にいるしさ」
「好きになるきっかけなんて意外と何でもないようなことだよ」
「ふーん…そういうもんかな?」
「あ、兵長!」

丁度このタイミングでリヴァイが席へと戻ってきて、ペトラはしゃんと姿勢を正す。
ひそひそと話していた私達を不思議に思ったのか、彼は怪訝そうに首をかしげていた。

「なんだこそこそと。上官の悪口でも話してたのか?」
「まさか!滅相もないです!」
「内緒の恋バナですよ」
「こら!name!」
「……楽しそうなのはいいが、そろそろあいつらを何とかしろ」
「え?ああ!ちょっとオルオ何してんのよ!」

リヴァイの指した方を見ると、グンタ、エルドと一気飲み対決をして負けたらしいオルオが赤い顔をしてテーブルに突っ伏していた。
潰した先輩2人は愉快そうに笑っているが、彼らもかなり酒が回っているようだ。
介抱するためにペトラは席を立つ。
テーブルの脇に立っていたリヴァイはペトラと入れ替わる形で、彼女が座っていた席に腰を下ろした。

すっかり炭酸が抜けてしまったであろうジョッキの中身に口をつける兵長を横目でちらりと見る。
飲みすぎたと言っていた時も思ったけど、やっぱり表情は変わっていない。
無表情に酒を煽る彼は何を考えているのかわからないし、班に引き抜かれたばかりの頃は兵長のそんなところが苦手だった。
今は流石に慣れてきたけど、私からするとこの鉄仮面のような上官に恋をするというのはちょっと…。
私はもっと優しくて笑顔の素敵な人がいいな!

(まあ、そんないい人いないんだけどね)

ちょっと苦笑がちに、兵長のものと同様に炭酸の抜けたビールを私は飲み干した。



その後、意識を取り戻したオルオは二次会だと騒ぎ始め、グンタとエルドも一緒になって盛り上がりだした。
明日は早番のため、私は両手を振って断る。
ペトラも断ると思ったが、彼女は意外にも二次会への参加を決めた。
次の日非番だというのもあるだろうが、一番は覚束無い足取りのオルオが気が気でないためだろう。
あの2人はあれでなんだかんだ仲がいい。

「あれ、兵長行かないんですか?」

背を向けたリヴァイにエルドが声をかける。
お前らも程々にしろよと言いながらリヴァイは手を挙げて先を行く。
その背中をペトラが残念そうに見つめていた。



***



兵舎への暗い道を、兵長と並びながら歩く。
正確には彼の方が少し前を歩いていて、私がそれについて行くような形だ。
2人の間に会話はなく、静寂の中に互いの靴の音だけが響いている。
こういう時は上官に気を使って私から色々と話すべきなのだろうが、如何せん、兵長とは何を話していいのかわからない。
他のメンバーといるときは何となく話せるのだが、2人きりになるといつも話題に困ってしまっていた。

「name、お前は結構飲めるんだな」

意外にもこの静寂を先に破ったのは兵長の方だった。

「はい、あまり酔わないので」
「そりゃいい。すぐ酔う奴はつまらねえからな、お前みたいのが班に1人はいてほしいと思っていた」
「兵長は酔わなさすぎですよ」
「そうでもねえ。今日はいつもより酔ってる」

そんなことを言っても彼の足取りはしっかりとしていて、声のトーンだって全然変わってない。
傍目にわかるような酔い方はあまりしない人なのだろう。私もどちらかといえばそうだけど。

「私はすぐに酔えるみんながちょっと羨ましいです。いつも自分が酔い始めた頃にお開きになるので、盛り上がりに差があるといいますか」
「なるほどな。だからお前はいつも落ち着き払って座っているのか」
「あはは…すみません、いつも盛り上がってなくて」
「別に謝ることじゃねえだろ。飲み足りないと思ってるのは俺も同じだ」

兵長の後ろを歩いていたはずの私はいつの間にか彼の横に並んで、普通に会話を楽しんでいた。
無口だと思っていた兵長は思いの外お喋りで少し驚く。

「兵長、やっぱり少し酔ってるんですね。今夜はお喋りですもの」
「馬鹿言え、俺はもともと結構喋る。お前こそいつもよりよく喋ってるじゃねえか」

それは、兵長を苦手だと思っていた時期があったからで、彼と何を話していいかわからなかったからだ。
けれど、今夜初めて兵長と話をするのが楽しいと思った。
このまま兵舎に着いてしまうのが惜しいと感じるほどに。

「飲み直してえな」
「え?」
「飲み直したい気分になってきた」
「兵長、二次会に参加したらよろしかったのでは?」
「いや、あれに参加するつもりは元々なかった」

騒がしいだけだしな、と彼は付け加えた。
少しわかる気がする。
二次会はちょっと落ち着いた席で、できたら仲のいい面子で行けるのが理想だ。

女子兵舎の入口まで送ってくれたリヴァイに礼を言いながら頭を下げる。
さあここでお別れというところで、リヴァイは突然、爆弾発言をした。

「俺の部屋にくるか?」
「……えっ?」

一瞬、何を言われたのかわからずフリーズする。
俺の部屋にくるか?それは、つまり、そういうことですか?
数秒瞬きを忘れ思考したあと、危険な夜のお誘いだと解釈してしまった私は一気に顔が熱くなった。

「い、い、いえ!私はそのようなお誘いはちょっと!」
「なんだ、てっきりお前もそういう気分だと思っていたが」
「ままままさか!上官とお酒の勢いでそのような関係になるのは流石に憚られます!」
「あ?お前、何を勘違いしてやがる?」
「か、勘違い…?」
「俺は部屋で飲み直さないかと誘ったつもりだったんだが?」

その一言で私は再びフリーズする。
一瞬のうちに全身が熱くなって、羞恥心が身体中を駆け巡る。
多分、私の顔はさっきよりもずっと赤く、みっともないことになってるに違いない。

「あ、あはは…すみません、私ったら」

顔が引きつってしまって、自分が何を言っているのかわからないくらいに恥ずかしい。
そんな様子が滑稽だったのか、兵長は軽く鼻で笑った。

「意外と色ぼけした頭をしているんだな」
「!」

違います!と心の中で私は声を大にして叫んだ。
しかし、酔いの回っていない頭はすぐに冷静になる。
兵長の最初の「俺の部屋にくるか?」という言い方はそう思わせても仕方がないような台詞ではなかったかと。

上官といえど、一つ言い返してやりたくなったnameは口を開く。
しかし、彼女の口から反論の言葉が紡がれることはなかった。

それより先に、リヴァイは右手を伸ばしつつ、彼女との間合いを詰めた。
nameは反射的に後ずさったが、すぐ後ろには戸板があり、数歩もなく背中がぶつかる。
リヴァイは右手をnameの顔のすぐ横に置くと、至近距離で彼女を見つめた。

「だが、まあ」
「兵、長…?」
「その頭の中の推測は、あながち間違ってねえかもな」
「!」

息がかかるほど、兵長の顔が近い。
怪しく揺れる灰の眼は獲物を捕らえた狼のようにぎらついている。
私はただ、喉元を押さえられた兎のように震え、ゆっくりと近づいてくる灰色に魅せられているしかない。
熱っぽい吐息を感じ、唇と唇が触れる寸前。nameははっと息を飲むと、身を固めてぎゅっと目を瞑った。
しかし、待てど唇には何も降ってこず、躊躇いがちに目を開ける。

「随分赤い顔をしている。今更酔いが回ってきたのか?」

意地悪く口の端を上げて笑う兵長の顔がそこにはあった。
眼にはやはり怪しい光が宿っていたが、彼はあっさりと彼女から身を離した。

「さて、さっさと風呂にでも入って寝るか。お前も明日は寝坊するなよ、name」
「え、あ…は、はい」

くるりと背を向けたリヴァイは男子兵舎へと帰ろうとする。
nameは板戸に貼り付いたように凭れたまま、その背中を呆然と見送った。
しかし、数歩離れたところでリヴァイは思い出したように足を止め、振り返った。

「言い忘れていたがな」
「は、はい…?」
「俺は酒の勢いで女を抱いたりはしない」
「!それは…」
「お前の色ぼけした頭なら、どういう意味かわかるだろう?」

にやりと意地悪く笑うと、彼は今度こそ振り返らずに男子兵舎へと帰って行った。

残された私は緊張の糸が解けたように大きく息を吐いた。
忙しなくなってしまった心臓を落ち着かせようと、そのまま何度も深呼吸を繰り返すが、ちっとも心音は小さくならない。

まるで不純なきっかけかもしれない。
けれど、先の兵長の言葉や仕草に、確かに胸がときめいてしまった。
何より、最後の確信めいた捨て台詞が頭の中で反響し続けて、未だに私を翻弄している。

(どうしよう)

さっきのさっきまで苦手な上官としか思っていなかったのに。
あの人は大事な仲間の想い人だというのに。
そんなジレンマに陥りつつも、胸に芽生えてしまったこの気持ちは消せそうにない。
もしまたあの眼で見つめられてしまったら今度こそ、私は。





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