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「いつまでそうしてるつもりだ」

ベッドにいるリヴァイが声をかける。
nameはソファの上で横向きに体育座りをしたまま、リヴァイに背を向けていた。
2人とも部屋着に着替えており、普段なら一緒のベッドで寛いでいる時間だ。

リヴァイはいつも通りnameのスペースを空けて横になっていたが、いつまで経ってもベッドに入ってくる気配がないことに痺れを切らして体を起こすと、背中を向けている彼女に声をかけたのだった。
nameは相変わらず無言のままで、兵士の割に華奢な背中には"怒ってます"とわかりやすく書いてあるように見える。
そのくらい、今の彼女は大変ご立腹だった。

「そこで一晩過ごすつもりか」
「…………」
「風邪をひくぞ」
「…………」
「おい」
「…………」

何を言っても反応なし。
リヴァイは小さく舌打ちするとベッドから出た。

「めんどくせえな」

そう言いながら、自身もソファに腰掛ける。
近くに来てもnameは振り返らない。
ソファで横向きに体育座りしている彼女は、右半身を背もたれに預けていた。
流石にこの体勢でいるのにも疲れてきたのかもしれない。

「こっち向けよ」
「……やだ」
「いつまで機嫌損ねてるつもりだ。お前はガキか」
「……っ」

リヴァイの言葉が冷戦状態だったnameの怒りを再燃させた。
彼女は姿勢を正すと、流石に一言何か言ってやろうと遂に後ろを振り向こうとした。
その瞬間、リヴァイは彼女の腹に手を回し、ぐっと引き寄せると自身の脚の間に収め、後ろから抱きしめた。
腹に手を回され引っ張られたことで、nameは思わず「ぐ!?」とあまりに色っぽくない声を出してしまった。
急いで逃げようとしたが、時すでに遅し。
リヴァイの脚の間にすっぽり収まり、なおかつ強く抱きしめられていることで簡単には逃げられない。

「……明日は、大事な日なんだよ?」

明日はリヴァイと付き合って3年目の記念日だ。
前々から2人で合わせて休暇を取り、夜はレストランを予約していた。
ずっと楽しみにしていたのだ。

「仕方ねえだろ。俺だって断りようがねえんだ」
「…わかってる」
「エルヴィンも謝ってただろうが」
「わかってるよ…っ」

急な召集がかかり、リヴァイは明日から王都へ行ってしまう。
今日、申し訳なさそうにするエルヴィンから聞かされた時は一瞬頭が真っ白になりつつも、「そっかあ、じゃあ仕方ないね」なんて、笑って聞き分けのいい振りをした。
任務だもの、仕方ない。
自分も一介の兵士。
それくらいわかってる。
でも…。

「前日にいきなりなんて酷いよ」

ぽろぽろと、遂に涙が溢れ出した。
俯いたnameの目から零れた涙がリヴァイの手に落ちる。
腕の中で静かに震えるnameの体温を感じながら、リヴァイは彼女の頭に手を伸ばした。
そっとそっと撫でてやる。

「そうだな」

泣いている彼女と同じように、明日の王都行きを聞いた時は表情にこそ出さないものの、リヴァイもかなりショックを受けていた。
召集されるときは、本来ならせいぜい遅くても5日前くらいには声が掛かるはずだ。
前日に言われることなんてこれまで一度もなかった。
よりによって、何故明日なんだと思った。
何故、nameとの甘い記念日を過ごすはずの明日に。

けれど、自分は兵士。
恋人との記念日のために任務を放棄するなどということは到底できやしないと、とうの昔に覚悟している。
「仕方ねえ」と言った通り、気持ちを切り替えるしかないのだ。

「また休みを合わせればいい」
「あのレストランで食べたかった」
「俺がまた予約してやる。好きなものを食べていい。他に行きたい場所があれば連れて行ってやる」
「……ごめん、我儘で」
「別にいいだろ。俺には我儘でも」
「っ…リヴァイ」

nameは振り返って潤んだ瞳を揺らすと、リヴァイの首に抱きついた。
彼はそれを受け止めると、優しく抱きしめ返す。
nameはぐすぐすと鼻を鳴らしながら涙を流した。

(まったく)

彼女の後ろ髪を撫でながらリヴァイは苦笑する。
nameと付き合ってもう3年になるというのに、彼女は出会った頃より子供っぽくなったようにさえ思う。
けれど、彼女が子供っぽくなるのは自分の前でだけで。
外での彼女は何があっても常に平静を保ち、上司にも部下にも落ち着いた笑顔で振舞っているのを知っている。
こんな風に拗ねたり、泣いたりするのは自分の前でだけだ。
それを知っているからこそ、我儘に甘える彼女を愛しく思う。

「買い物にも行きたいな…」

涙が落ち着いてきたnameはリヴァイの肩に頭を置いてぽつりと呟いた。
その一言があまりに突拍子もなくて、リヴァイは一瞬目を見開いたが、彼女の突拍子のなさはいつものことだ。
やはり子供っぽいというか。
「はっ…」と思わず声を出して笑ってしまった。

「一緒に行ってやるよ」
「…ほんと?いいの?」
「ああ、遅番の日でも早番の日でもいい」
「ありがとうリヴァイ!欲しかったワンピースがあるの!」

さっきまで彼女の瞳を濡らしていた涙は止まり、代わりに花が咲いたような笑顔がリヴァイに向けられた。
ああ、好きになった笑顔だ。
リヴァイが彼女の瞼にキスすると、nameも嬉しそうにキスをし返した。大好きな彼の唇に。
こんなに蕩けるような笑みを見せるのも、自分にだけ。

どんな彩りのある表情も、自分にしか見せないから嬉しくなる。
甘やかしすぎかと思う時もあるが、恋愛は惚れた方の負けなのだと、どこかで聞いたことがある。
ここ3年くらいの自分はまさにそれだと思いながら、リヴァイはnameに唇を落とした。





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