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壁外調査を控えた前日。
雑木林の中で枝の破裂音が響き、軽い訓練で終えるはずだったリヴァイ班にどよめきが起こった。
一本だけのワイヤーは歪な弧を描き、兵士の体は木に衝突する。
そのままずるずると降って地面に落ちた。
リヴァイはアンカーを放つと、遠心力に従いながら地面ギリギリへと身を沈めていく。
綺麗に着地すると兵士の元へ歩み寄り、冷静に声をかけた。

「おい、無事か」
「はい…すみません」

顔を上げたロレも、同様に落ち着いた声色で応える。
リヴァイが手を差し出すと、彼はやや戸惑いがちにその手を取る。
引っ張りあげようとした瞬間、微かにロレの眉根が寄せられたのを見逃さなかった。

立ち上がった彼の腰からだらしなくぶら下がっている噴射機を拾ってトリガーを引いてみる。
何かが詰まっているように動かないことを確認すると、リヴァイは噴射機を投げて渡した。

「故障だ。壁外調査の参加は諦めろ」
「…!いえ、部品でしたらすぐに交換できますので」
「馬鹿が。故障したのは装置だけじゃねえだろ」

リヴァイは舌打ちしながらロレに背を向けた。
心配げな表情で集まってきた他の班員達に訓練終了の礼を出す。

「大人しく養生してろ。死にたくなければな」

ロレは苦々しく顔を顰めると、右の手首を握った。
少しの刺激でも痛むその手で壁外へ行けばどうなるか、結果は聞かなくてもわかることだった。



01 青年の負傷



845年、9月。
nameが兵団へ来て1年、この世界へ来てからは2年が経とうとしていた。
すっかり生活にも慣れた彼女は日々の仕事に終われ、恋人と日常を過ごし、穏やかに生活していた。

元の世界のことを思い出すことも、殆どなくなるほどに───。



「はい」

丁寧に淹れた紅茶を彼の前に置く。
寝室の窓際に置かれた小さな丸テーブルに、湯気を立てるティーカップが二つ。
リヴァイは飴色に揺れる紅茶に口を付けると、深く息をついた。

「じゃあ…今回はロレくんは不参加になったんだね」

リヴァイの部下であるロレの負傷に胸を痛めた様子で、nameも紅茶を飲む。
部下の急な怪我を痛手に思っているのはリヴァイも同じで、険しい表情をしている。

「正直あいつが班から抜けるのは痛手だが…仕方ねえな」
「でも、故障がわかったのが今日でよかったね。もし壁外に行ってる最中だったら…」
「…まあ、そうだな。あいつも命拾いしたと思ってるだろうよ」

真面目な彼は装置の点検を怠る男ではない。
その上で起きてしまった事故ならば何を責めることもできないし、寧ろ今日のうちでよかったと、不幸中の幸いに胸を撫で下ろすしかなかった。

「リヴァイがいない間、話し相手になってもらおうかな?」
「お前な…間違っても部屋には入れるなよ」
「大丈夫、それはしないから。それに、リヴァイだってロレくんのことは信用してるでしょう?」
「…………」

彼女の言葉通り、リヴァイはロレのことを仲間として認めるようになっていた。
立体機動の腕には不安要素があるが、彼はいかなる時も冷静さを欠かさずに対処できる若者だ。
そんなところを気に入ってか、班の編成を調整する際もリヴァイがロレを外すことはなかった。彼もまたリヴァイを心から尊敬しているようで、彼らは良い関係になってきていると言えた。
また、真面目そうな見かけによらず策士のような一面をもつロレには、どこかファーランと同じ雰囲気を感じていた。


「ロレくんってファーランに似てるから、何だか話しやすいんだよね」


nameはふわりと笑って窓の外に視線を移すと、煌めく星を眺めた。
今は亡き二人を想う彼女の目には、やや寂しげな色が滲んでいる。悲しみがなくなったわけではないが、懐古できるくらいにはなった。

「性格は違うのに、不思議」
「ずる賢さはファーランの方が上だがな」
「うーん、真面目さは負けちゃうかもね」
「あいつは寝起きも悪かった」
「あ…でも、イザベルの扱いだったらファーランに任せる以外ないよね」
「ああ、間違いねえ」

リヴァイの即答にnameはおかしそうに笑う。
仲間であり家族でもあった二人を思い出し、リヴァイも懐かしさに口元を緩めた。


("家族"…か)


彼はティーカップから手を離すと、スラックスのポケットに触れ、中に忍ばせている小さな箱の感触を確かめた。
掌に収まるそれを布越しに掴み、口を開く。

「name」

不意に名前を呼ばれたnameはまだ楽しげに笑っている。
けれど、リヴァイの真面目な表情に気づくとすぐに居住まいを正した。
次の言葉を静かに待つが、彼はそれきり黙り込んでしまった。

まただ、とnameは思った。
リヴァイは時々、自分の名を呼んでは歯切れを悪くし、黙りをしてしまう。
こう何度も繰り返されては流石に言及したくなってくるが、彼には聞かせまいとする雰囲気がある。
だから、彼女はいつも促すように彼を呼ぶしかできない。


「リヴァイ?」


彼を映す漆黒の瞳は月明かりを受けて淡く揺れる。
リヴァイはnameを見据えたまま、二の句が継げないでいた。
今渡すべきかという、迷いと臆病さが顔を出している。
そんな自分に、困ったものだとリヴァイは内心で苦笑する。
まだるっこしいことは何よりも嫌いなのに、彼女のこととなると何故こうも慎重になってしまうのか。


悩んだ末、ふっと息を吐いて目線を逸らす。そして、思い出したように瞬きをした。


「今夜は一緒に風呂に入れよ」
「…へ?」


nameは大きな目を更に丸くして間抜けな声を上げた。
長い沈黙の後にしては呆気なさすぎる答えだった。

「ど、どうしたのいきなり?」
「別に…たまにはいいだろ」

そう言うが早いか、リヴァイは席を立つと、nameの手を引いてシャワールームへと進み出した。
顔を逸らしている彼の顔が赤い気がした。

「たまにじゃあ、ないけど」

小さく呟き、週に一度は一緒に入ってるもの、とnameは内心で付け加えた。
そんな心の声が聞こえたかのようなタイミングで、リヴァイは振り返る。
脱衣室の戸を閉めて、扉と自分の間にnameを閉じ込めた。
そして、微かに身を屈めて顔を寄せる。


「うるせえ口は塞ぐぞ」


強引な口ぶりにnameは苦笑して、その言葉とは裏腹に優しい口付けを受け入れた。
彼は早く眠らなければならないというのに、啄むキスから熱い夜の始まりの予感がする。
こういう時のリヴァイは、静止させても聞かないということをよく知っている。

いつの間にか釦を外されたブラウスの前が開き、骨張った手が中へと入ってくる。
口付けが深いものになるにつれ体が熱くなるのを自覚しながら、nameはリヴァイの背に手を回した。

明日から暫く会えない日々が始まる。
そう思うと、壁外調査前夜は互いを求める熱を止められないのだ。

名残惜しいのはいつものこと。

けれど、今夜は何故かいつもより離れ難い気がして。
こみ上げる切なさに突き動かされ、彼らは互いに強く抱きしめ合い、そして乱れた。



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