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「飲み会?」

風呂上がり、濡れた髪を乾かしながらnameはリヴァイの話を聞いていた。

「今週末にうちの班でやることになった」
「そう、なんだ…」

親睦を深めるという意味で班では定期的に飲み会が行われるものらしい。
班員から是非やりましょうと言われていたリヴァイだが、正直、そういった馴れ合いは面倒だと思っていた。
しかし、過去にリーダーをやってきた経験から酒の場でのコミュニケーションが大事なことも知っている。
班のメンバーでいずれ壁外に行くことを考えると、"仲間"として親睦を深めるのも必要だと、割り切って行くことにしたのだ。

「帰りが遅くなるだろうから先に寝ていろ」
「…わかった。楽しんできてね!」

振り返ったnameはいつも通り笑っているのに、どことなく寂しげに見えた気がしてリヴァイは首をかしげた。
気のせいだろうか?



06 赤い顔



週末の夕刻。
訓練場を出たところで、リヴァイは意外な人物と鉢合わせた。

「リヴァイ班長!」

彼の顔を見るなり声をかけたのは厨房の料理長、ロッティ・マルクスだった。
勤務中は常に食堂付近にいる彼女と訓練場で顔を合わせるのは初めてのことだった。
いつも冷やかすような笑みを送ってくるロッティはいつにない真剣な顔で話しかけてきた。

「nameなんだがね」
「なんだ、nameがどうかしたのか」
「熱でふらついていて今日は昼のうちに帰したんだよ。医者に見せた方がいいって言ったんだけどただの風邪だって言って聞かなくてね」

リヴァイは驚き、微かに目を見張った。
瞬時に朝のnameの様子を思い出してみるが、彼女はいつもと同じ様子だったはずだ。

「なんだと…朝は普通だったってのにそんな急に熱が出るものなのか」
「さあ。とりあえず、さっき夕食にミルクスープを持って行ってやったけど、なんだか悪化しているような気がしてね。心配だからあんたにも言っておこうと思ってさ」
「わかった…ロッティ、感謝する」

リヴァイの返事にロッティは安堵したように笑うと、頼んだよと言って立ち去った。
ふっと息を吐いてリヴァイが後ろを振り返ると、話を聞いていたであろう班員達が彼を見ていた。

「お前らは先に行け。悪いが、顔を出せなかったら適当に解散にしてくれて構わない」

早口にそう伝えると背を向けた。
nameが熱を出すなんてことは初めてのことだ。
不安が広がっていくのを振り払うように、早足で兵舎へと向かった。



自室に戻ると執務室は暗くがらんとしていた。
まるで人の気配がしない執務室を過ぎて寝室の扉を開ける。
広いベッドの端っこで、nameが赤い顔をして目を閉じていた。
こんな時くらい真ん中で眠ればいいものを。
律儀な彼女の性格に苦笑しながら近づくと、人の気配に気づいたのかnameはゆっくりと瞼を上げた。

「あ…おかえりなさい」
「熱は下がらないのか」
「えっ…どうして?」
「ロッティがお前の病状を伝えに来た。食事は済ませたようだな」

チェストの上にはロッティが持ってきたらしいトレーと皿が置かれていて、皿はきちんと空になっていた。
食欲はあるということがわかってリヴァイは少し安堵した。

早退に加え、夕食やリヴァイへの伝達など、ロッティに様々な気を遣わせてしまったことを申し訳なく思ったのか、nameは眉を下げた。

「迷惑かけちゃった」
「いいから治すことだけに専念しろ。今から医者に行くぞ」
「そこまでしなくて大丈夫だよ。寝てれば治るから」
「お前が体調を崩すなんて初めてのことだろうが」
「でも、もう診察時間過ぎてるし…行くなら明日にしよう?」

時計を見ると、確かに診察の時間は既に過ぎてしまっていた。
医者に無理を言ってでも診てもらえばいいと言ったが、nameは断固としてそれを拒否した。
病院嫌いな彼女はできれば自分の力で治したいのだろう。

「わかった。診察室へ行くのは明日の朝だ。それまで静かに寝てろ」
「はい…そういえばリヴァイ、今夜は飲み会じゃなかった?」
「こんな状況で酒なんざ飲んでも美味くねえ」

赤く染まった頬に触れると、確かに熱い。
呼吸も荒く、弱々しい瞳からは苦しさが伝わってくる。
こんな彼女を置いて酒を飲むなんてことできるわけがない。
親指で頬を軽く撫でると、nameは気持ちよさそうに目を閉じた。

「ごめんなさい」
「…?何を謝ってやがる」
「リヴァイがいてくれるってわかってほっとしたの」
「当然だ。俺が弱ったお前を放っておくわけないだろう」
「違うの。本当は…今夜の飲み会行ってほしくないって思ってた」
「…何故そう思う」
「…………」
「name?」

それきり口を閉ざしてしまったので名前を呼んでみたが、返事はない。
見れば荒々しかった呼吸は落ち着いて規則的なものになっており、彼女は幾分か安らいだ表情で眠っていた。

額に唇を寄せておやすみのキスをすると、やはり熱い。

リヴァイは一度部屋を出て洗面に行くと、冷たい水を入れた桶と清潔なタオルを持って寝室へ戻った。
タオルを水に浸してよく絞ると、彼女の小さな額に乗せてやった。

何故、今夜の飲み会に行ってほしくないと思っていたのか?
その答えを考えてみてもリヴァイには心当たりがなかった。
nameは一体何を懸念していたんだ。



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