×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




あれから、まともに眠れないまま朝を迎えた。

初めての壁外調査で緊張しているかと思ったが、3人は至っていつも通りだった。
昨日の意味深な言葉が嘘みたいに、ファーランも普通に笑っている。
あんまりにも普通なものだから、昨日のあれはやっぱり気のせいだったのではないかと思うほどだ。
気のせいならそれでいい。
ただ、みんなが無事に帰ってきてくれればそれでいいのだ。
すう、と息を吸い込む。

「いってらっしゃい!!」

聞こえるように声を張り上げると、3人は驚いた顔でこちらを見た。
他の兵士達からも注目を浴びてしまったが、そんなの気にしない。
イザベルは笑顔で手を振り、ファーランは親指をぐっと立てた。
リヴァイは注目を浴びたことが不快だったのか、眉間に皺を寄せてしまっている。
うん、みんないつも通りだ。
笑顔で3人にピースサインを返す。

数日後にも笑っておかえりなさいを言えることを願って、3人の勇姿を見送った。



19 男たちの



壁外調査1日目の夜。
古城の中に腰を落ち着けた調査兵団一行は就寝の準備をしていた。
支給された毛布を敷き、荷物の袋を枕替わりに横になる。
こんな即席の寝床でも、冷たい地面に直接雑魚寝するよりはマシだった。

初めての壁外に興奮したし、初めて見る巨人に恐怖も感じた。
早々に夢の世界へと旅立ったイザベルに自分の毛布を掛けてやると、リヴァイは壁にもたれて眼を閉じた。

「収穫なしだな」

ファーランは高い天井の闇を見ながら呟く。
古城についてから隙を見てエルヴィンの荷物を漁ってみたが、書類は見つからなかった。
部屋にもない、荷物にも入っていない。
エルヴィンが肌身離さず持っている可能性はますます高い。
力尽くで奪うという考えもあったが、完璧な索敵陣形の中で他の兵士達に気付かれずにエルヴィンに近づくというのは明らかに無理だった。

「こりゃ作戦の練り直しだな。それよりもまず、無事に壁内に帰ることを優先した方がいいかもしれない。あの巨人共の動き見たろ?」
「思ったよりも速かったが、一体なら問題ない」
「はは…無敵の名は壁外でも健在だな」

初めて巨人と遭遇した時、リヴァイは臆することなく巨人へと立ち向かっていった。
「死にたいのか」と罵倒した班員の言葉に反して、彼は初めての討伐を簡単にやってのけたのだ。

「明かりを落とすぞー」

誰かの声を合図に壁掛けの松明がいくつか消されていく。
不測の事態のために全消灯はしないが、城内は眠気を誘う暗さへと落ち着いた。
談笑を交わしていた兵士達も徐々に静かになっていく。

「…王都へ行ったらさ、お前、nameと2人で暮らせよ」

ファーランはリヴァイにだけ聞こえる声で囁いた。
眼を瞑っていたリヴァイはぴくりと眉を動かして開眼した。

「あ?」
「リヴァイだってその方が都合いいことも多いだろ。俺はイザベルと適当にやる。なに、つるむのをやめるわけじゃない。住む家が変わるだけだ」
「…振られた女と顔を合わせて暮らすのは耐えられないってか?」
「まあな……って、は?」

リヴァイの言葉にファーランは思わず飛び起きた。

「なんで知って…!」
「声がでけえよ」
「まさかつけてきてたのか?」
「そんなことしなくとも、お前の気持ちぐらい気づいてた」
「い…いつからだよ」
「お前が熱で倒れた時から」
「(やっぱり見られていたのか…)」

看病をしながら眠ってしまったnameに触れようとした時、タイミングよくリヴァイが登場したのは偶然ではなかったらしい。
上手く隠せていると思っていたのは自分だけで、他の場面でもリヴァイには勘づかれていたのかもしれない。

「…悪かった」

ぐしゃっと前髪を握りつぶしながら呟く。
知った上で何も言ってこなかったリヴァイを恐ろしく感じた。
相棒の女に手を出すなんて、袂を分かつことになっても何も言えない。


「お前じゃなかったら殺してたな」
「…なんで止めなかった?それだけ前に気づいてなら釘を刺すことだってできただろ?」
「nameが嫌がることを、お前はしねえだろ」
「…!そ」

「うるせえぞー」

苛立ったような兵士の声にファーランは口を噤む。
あっさりと言ってのけたリヴァイだが、この暗がりのせいで表情まではわからない。

どれだけ優しくしても、笑わせても、nameはリヴァイしか見ていない。
リヴァイの言う通り、そんな彼女を無理やり自分に向かせるような真似はできなかった。
昨晩の切羽詰まった状況になって初めて行動に起こすことができたが、困惑し、拒否をする彼女を見るとやっぱりそれ以上の無理強いなんてできるわけなかった。

「第一、あいつは俺を裏切るような真似はしない。ファーラン、お前だって、nameが簡単に裏切るような女じゃないから好きになったんだろ」
「!……ふっ、ははっ」

思わず声を出して笑ってしまったせいで、また誰かの怒鳴り声が聞こえた。

リヴァイの言葉になんだか妙に納得してしまったのだ。
nameが自分のことだけを見てくれたらどんなにいいかと、何度も思ったのに、リヴァイを裏切る彼女の姿は見たくない。
矛盾した感情だが、それが正直な気持ちだった。
おかしなもんだな。
俺は多分、リヴァイに惚れてるnameに惚れてたんだ。

「まあ…別々に暮らすことを無理に止めはしないが、王都に行くならお前とイザベルがいる暮らしをあいつは夢見てるだろうな」
「俺はnameの夢を壊すような真似はしねえよ。リヴァイ、明日、何としても生きて帰ろう。書類だって、また計画を立て直して必ず手に入れようぜ」
「ああ、そのためにここまで来たんだからな」

ファーランが歯を見せてと笑いかけると、リヴァイもふっと息を吐いて笑った。
久しぶりに笑った気分だ。
リヴァイは腕を組んで眼を閉じると、今度こそ眠りの体勢に入った。
ごろんと横になると、ファーランも欠伸をして目を瞑った。
こんな寝床だってのに、昨日よりずっと心地よい眠りにつけそうだ。
帰ったら、nameともまた普通に、仲間として楽しくやっていけそうな気がする。

明日は何としても生きて帰る。
リヴァイ、お前がいてくれれば巨人にだって負けねえはずだよな。



back