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「name、よかったらこれ使うかい?」

ロッティが投げてきたものをnameは咄嗟に受け取った。
それは今が旬の果実で、丸い緑色の皮にうっすらと赤い色が浮かんでいる。
瑞々しく芳醇で、まるで私を食べてと誘っているようだ。

「今日、あの赤毛ちゃんにケーキを作ってやるんだろ?それ使いなよ」
「でも、いいんですか?」
「この少ない量じゃ兵士全員に振る舞うなんてできないしね。それはあたしから赤毛ちゃんへのプレゼントってことでいいよ!」
「ロッティさん…ありがとうございます!」

果実へ顔を寄せると、甘酸っぱくフルーティな香りがした。
よし、きっと美味しく作ってみせる。



15 少女の記念日



人気のなくなった夜の食堂に小さな歓声が上がった。
リヴァイ、ファーラン、イザベルの3人はテーブルに置かれた甘い香りのするそれに目が釘付けになった。

「今日は頑張りました。ソルダムのタルトです!」

驚いている3人にnameはピースサインをする。
見た目にこだわった分手間がかかったが、かなりの自信作だ。

くし型にカットされた果実は中心から外へ広がるように丁寧に置かれ、つやつやと輝いている。
皮を剥かれた果肉は真っ赤な色をしており、その色も相まってまるで薔薇のようだった。

「すっげえ!」

真っ先に反応したのは本日の主役のイザベルで、果実に負けないくらい綺麗な赤毛を揺らす。
今日一番喜んでもらいたかった彼女の興奮した様子を見て、nameは満足そうに歯を見せて笑った。

「切り分けるから待っててね。紅茶もすぐ淹れるから…」
「俺がやる」

上手く切り分けようとナイフを持って奮闘しているnameを見兼ねて、リヴァイは紅茶を淹れ始めた。
ファーランは薔薇のように見えるタルトに見入りながら、「芸術的だな」と呟いた。

「なんか切るのが勿体ないな」
「ファーランありがとう。でも、驚いた3人の顔を見たら満足しちゃった。はい、イザベル」
「サンキュー、name!」

渡された皿の上のタルトをイザベルは目を輝かせて見つめた。
勿論、彼女の分は大きめに切ってある。
皿と紅茶が揃うと、イザベルは一番先にタルトを頬張った。
一口食べると、ソルダムの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
咀嚼して飲み込むと、ブランデーの香りが鼻から抜けた。

「不思議な匂いがする…!」
「あ、わかった?厨房にブランデーがあったからちょっと拝借したんだ」
「name、職権乱用だぞ」

ファーランのつっこみにnameは悪戯っぽく笑ってみせた。
殆どの食材は昨日買っておいたが、偶然手に入ったソルダムのお陰で思わぬ一品が作れてしまった。
やはり、ケーキやタルトに新鮮な果物はよくマッチする。

「この果実は見たことねえが、よく手に入ったな」

リヴァイは甘くなった口内を紅茶でさっぱりさせる。
よくキャラメリゼしたためか、彼の口には少々甘さが強い。

「ソルダムっていう果物でプラムの仲間。ロッティさんがくれたの」
「あの女か…」

やや顔を青ざめさせてリヴァイが呟く。
以前nameの部屋を出る瞬間を見られてから、ロッティは何かとリヴァイに声をかけるようになった。
彼女としては親しみを込めて話しかけているつもりだが、リヴァイはあの豪快な感じが苦手のようだった。

「と、イザベル。これは俺とリヴァイからだ」

ファーランは背中に隠していた袋を出すと、イザベルに手渡した。
プレゼントだとわかった彼女は嬉々として袋を開けたが、中身を見て首をかしげた。

「服?」

イザベルがそれを広げてみると、シンプルなワンピース型の寝間着だった。
なんというか、2人がイザベルのために選んだにしては意外なセレクトだとnameは思った。

「お前、ここへ来てから兵服のまま寝てるらしいな」
「ぎくっ」
「訓練をした兵服なんかでベッドに上がったらシーツが汚れるだろうが。イザベルよ、俺が知らないとでも思ったか?」
「あ、兄貴…」

リヴァイは腕を組んでイザベルを見下ろすように顎を上げた。
元々清潔さには無頓着なイザベルは、ここへ来てリヴァイの掃除の監視から逃れられた気分で、兵舎ではすっかり気を抜いていた。
仲間のそんな怠惰をリヴァイが許すわけもなく、プレゼントを寝間着にすると決めたのはどうやら彼のようだった。
デザインのセンスはファーランによるものだ。

「だいたい何で兵服のまま寝れるんだよ。体疲れねえのか?」
「いちいち着替える手間がなくて楽なんだよ!寝坊してもこのまま行けるしな」
「「…………」」

イザベルの図太さにリヴァイとファーランは言葉を失う。
とりあえず、あげたからには今日から寝間着を着て寝てくれるだろう。
苦笑いしていたnameは気を取り直して、ラッピングされた小さな包みをイザベルに手渡した。

「私からはこれ。気に入るといいんだけど」
「……わ、綺麗だなあ」

イザベルが慣れない手つきで包みを開けると、中には髪留めが入っていた。
髪留めといっても装飾が派手なものではなく、いわゆる髪を結ぶための紐だ。
橙色の糸で紡がれており、光の加減で時折光って見える。

「何色にしようか迷ったんだけど、私の中のイメージで橙色にした。明るいイザベルにぴったりかなって」
「なんか可愛すぎないか?俺、髪結ぶ紐なんていつも適当だったからさ」
「試しに結んでみようよ」

nameはイザベルの手から2本の髪紐を預かると、彼女の後ろに回って赤毛を結び直した。
橙色の髪紐は綺麗に輝きつつも、イザベルの赤毛の鮮やかさを引き立てていた。
正面から見ると、耳の下のあたりに結んだ紐がちらっと見えて可愛らしい。

「似合ってるな」
「まあ、悪くねえ」

男性陣に褒められ、イザベルは照れくさそうに鼻をかく。
2人の褒め言葉以上によく似合っていると思った。
柔らかな赤毛を撫でるとぱっと笑顔が咲く。
こうやってお洒落するのもいいけど、やっぱり女の子を一番可愛くするのは笑顔みたいだ。

「イザベル、誕生日おめでとう!」
「おう!」

出会った頃は痩せて小さく見えたイザベルは、いつの間にかすっかり逞しくなった。
いつか少女の面影を捨てて、素敵な大人の女性になるであろう彼女の成長をこれからも見ていきたい。
お互い何歳になってもこんな風に笑いあえることを、彼女の生まれた記念日にこっそりと願った。



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