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兵舎は男子と女子で棟が違い、リヴァイとファーラン、イザベルはそれぞれ部屋が分かれた。

nameは兵士ではないので、また違う棟の部屋を案内された。
ベッドは2つあるが、相部屋の相手はいないらしい。
部屋に入って気づいたのは埃っぽいということ。
もう西日が傾いていたが、腰を落ち着ける前に掃除をすることにした。


nameがやっとベッドに腰を下ろすことができたのは、すっかり暗くなってからだった。
元々綺麗好きな方だが、リヴァイと一緒に暮らしていた影響か、部屋の汚れにはより敏感になってしまっているようだ。
たった1年でも随分影響を受けるんだなと、小さく苦笑した。

荷物を広げると、持ってきた服や小物をしまっていく。
未練があるわけではないのだが、スマホや手帳類は捨てることができずに鞄ごと持ってきていた。
どこに収納しようか迷って、結局ベッドの下に隠すことにした。

一通り片付いたところで、部屋がノックされた。
扉を開けると、悪戯っぽく笑ったイザベルが立っていた。

「皆で集まってるんだ。nameも来いよ」



10 恋しい天井



男兵舎の屋上で、4人並んで座る。
真っ白な月が雲の切れ間から顔を覗かせた。
太陽とは違う優しい光が心地いい。

「お前の足のことだが」

リヴァイはぽつりぽつりと、これまでの経緯を話し始めた。

nameの足の違和感、ロヴォフの依頼、前金の薬、意図的な調査兵団への入団。
そして、目的の書類を処分したら兵団から立ち去り、王都で暮らすつもりだということ。
時々眉を寄せながら、nameは静かに聞いた。

「兵団に入ったのは、お前を早く地上へ連れていきたかったのもある。だが、それだけが全てじゃない。上で暮らすことは俺達のずっと前からの目標だった」
「うん…」
「だから、余計なことは考えるな」
「……その書類って、すぐに見つかるものなの?」

エルヴィンはとても用心深く、頭の切れる男に見えた。
もし大事な書類があるのだとしたら、そんな簡単には見つけられないような気がした。

「大丈夫だ。書類は俺が探す。紙1枚探すのにそんなに時間はかからないはずさ」
「そう…」

明るく言ったファーランに相槌を打つが、nameの表情は浮かない。
…なんだか疲労感がある。
今日は一度に色んな情報が入りすぎて頭が限界にきているのかもしれなかった。
体育座りをした膝に顎を乗せてふう、と息をついた。
イザベルも同じように体育座りをすると、甘えるようにnameに凭れかかった。

「俺、あのエルヴィンてやつは嫌いだ。nameに嫌なこと言ったしさ。でも…医者に見てもらえたのはよかったよな」

"嫌なこと"というのは、エルヴィンの「仲間に見えない」という発言のことだろう。
nameは笑って、気にしてない、と言った。
そして、どうやらイザベルとファーランは診察を受けたことをリヴァイから聞いているらしい。

医務室で診察を受けた経緯を話した時のリヴァイの反応は、稀に見る驚きようだった。
そして、nameを勝手に医者に診せたエルヴィンが許せなかったらしく、至極腹立たしそうに舌打ちをした。
「すぐに治る」という結論を聞いてからは、安堵したように溜息をついていたが。
ころころと表情を変えるリヴァイがおかしく、思わず笑ってしまった。
あのあと、どんな風に2人に説明したのか、少し気になるところだ。
2人もあんな顔で驚いたのだろうか。

「あの薬、本当にありがとう。そうとは知らずに散々嫌がってごめんね」
「…へへっ。これからは喜んで飲めよ〜」

寄りかかるイザベルの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに頬ずりをした。
赤毛の髪からは自分と同じ石鹸の香りがする。
彼女だけでなく、4人とも同じ香りのはずだ。

朝いってらっしゃいを言って見送ったり、夜は談笑しながらご飯を食べたり。
そんな、昨日まで当たり前だった日々がとても懐かしい。
地下は決して住みやすいところじゃなかった。
陽のない生活を続けていたら、本当に歩けなくなったかもしれない。
けれど、4人で暮らすあの家が大好きだった。

「また4人で暮らせるかな…?」
「当たり前だろ。俺達は次は太陽の下で暮らすんだ」

ファーランは希望に満ちた目で空を仰いだ。
この中でも人一倍、地上への執着が強かった彼はすでに先の生活を描いているらしい。

黒い雲が月を隠して宵闇が深くなる。
あの天井のある感覚が、恋しく感じた。

「期限を決めるぞ」

雲隠れした見えない月を見つめながらリヴァイが呟いた。
全員の視線が彼に集まる。

「nameの足が完全に治る頃、俺達は王都にいる。こんなところに長居するつもりはねえ。nameの完治までを期限に行動する」

リーダーの言葉に、ファーランとイザベルは強く頷く。

「そうだな、こんなところは1日でも早くおさらばだ。王都での生活が待ってるんだからな」
「なんなら、nameが治るより早く書類を見つけよーぜ。その方がnameだってゆっくり治せるだろ!」

な?と明るく笑いかけたイザベルに、nameは眉を下げて微笑む。
本当に、自分は皆に助けられてばかりだ。
この世界に来て出会えたのが彼らで本当に良かったと心から思った。
そして、患った自分の足がやっぱり少し恨めしかった。

「name、お前は自分の足を治すことに専念しろ。俺達は書類を見つける。その後のことは、その時考えりゃいい」
「うん…わかった」
「それから、ここの奴らとは必要以上に親しくするな」

リヴァイは声のトーンを少し抑えた。
えっ、とnameは目を丸くする。

「お前らもだ。親しくなれば情が湧いて長居したくなる。そうなりゃ目的も見失っちまう」
「俺達が?あんな奴らと仲良くするわけないだろ!」

んべ、とイザベルは舌を出した。
どうやらエルヴィンに向けてやっているつもりらしい。イザベルの彼への印象は最悪みたいだ。
それを見てファーランは大きく笑った。

「相変わらず心配性だな、リヴァイ。俺達はずっと地上で暮らすためにやってきたんだ。今更こんな兵団の奴らと仲良くするつもりはないさ」
「…だといいがな」

リヴァイはちらりとnameを見た。
自分達とは違い、あまり警戒心を出さないnameは一番先に兵団に馴染んでいくかもしれない。
そして、彼女がエルヴィンと2人きりの時にどんな話をしたのか気になっていた。
初対面から彼女に何か関心を持ったらしいエルヴィンには、より警戒が必要だった。
nameが別の世界から来た人間だということが知れれば、兵団の奴らは放っておかないだろう。
万が一にも、それだけは避けなくてはならない。

「name、わかったか」
「わかった…気をつける。早くまた4人で暮らしたいもの」

笑って頷いたnameに、リヴァイは少し安堵する。
そう、兵団(ここ)はあくまで通過点。
夢にまで見た地上で、自由に暮らすのだ。



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