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薬を手渡された日から、ファーランは情報屋に頼み、馬車の男の身辺調査を行った。
彼はニコラス・ロヴォフという王都に住む議員の一人だった。
深いところまで探りを入れることはできなかったが、調査兵団と何らかの関係があるのは確かなようだった。
そして、前金として手渡された薬も念のため医師に確認させたが、間違いなく足の症状を抑える薬だった。


3人はファーランの部屋に集まると、情報屋の報告書に目を通した。
全て読み終わったあと、イザベルは興奮した様子で立ち上がった。

「すげえ…すげえ仕事だ。兄貴、やるんだろ!?」

彼女の言う通り、こんなに上手い話はない。
情報に不確かなところがあったとしても、地上へ行けるのならこの仕事はやる価値がある。
nameのためにも、何としても地上へ行きたいとファーランは思った。
背を向けるリヴァイに声をかける。

「リヴァイ、悪かった。nameの足のこと…」
「ファーランよ、お前はこの仕事どう思う?」

リヴァイはトリガーの調子を確かめながら尋ねた。
不意をつかれたような質問にファーランは一瞬言葉を失う。
暫しの無言のあと、しっかりとした口調で話し始めた。

「この仕事はやるべきだ。nameの足のことがなくたってそう思ったさ。これまでだって、俺達は何のために仕事をしてきたんだ?上に行くためだろ」

拳を握りしめたファーランの目に迷いはなかった。
彼の言葉にイザベルも頷く。

「やろうぜ、兄貴」

問題のなかったトリガーを腰にかけると、リヴァイはゆっくりと振り返った。
2人の強い眼差しを見て、彼も心が決まった。

「外ではいつも通りにしていろ。もし奴らが接触してきたら……仕事を始める」



07 地上からの使者



玄関の扉がやや乱暴に開く音がして、食料庫にいたnameは顔を上げた。
帰宅にしてはいつもよりずっと早い時間だった。
何かあったのかと思いつつ、食料庫を出て玄関へ向かった。

「おかえりな……さい」

足早に駆けていた足が思わず止まった。
リヴァイ達以外の見知らぬ男女が数人、中へ入ってきていた。
彼らは皆同じような制服とマントを着ており、勇ましい顔つきをしている。
3人は後ろ手に拘束されていた。
よく見ると、リヴァイは髪から服まで泥だらけになっている。

状況が読めず立ち尽くしていると、一人の男が声をかけてきた。

「君がもう1人の仲間か」
「えっ」

声をかけてきたのは金髪の男性だった。
長身で大柄なその男の低い声は、やや威圧感がある。

「質問に応えたまえ。君は彼らの仲間なのか?」
「は、はい。そうです」

金髪男はnameに近寄ると、小柄な彼女を見下ろした。
近くで見るとますます威圧的に感じて少し後ずさる。

「君も立体機動を?」
「いえ…私は操作できないので」
「ふむ……なんとも、不思議だな」

金髪男は顎に手を添えると、思案げにnameを見つめた。
解せない、といった様子で。

「君が彼らの仲間のようにはあまり見えなくてね」
「えっ…?」

男の言葉に絶句する。
"仲間に見えない"というフレーズが、刃物になって突き刺してきたようだった。

「おい!何言ってやがる!」

金髪男の後ろでイザベルが腹立たしげに声を上げた。
それを意に介さない様子で男は続ける。

「いや、失礼なことを言ってすまない。君はどうも地下街にいる人間の顔には見えなくてね。育ちが良さそうに見える。立体機動装置を使わないなら、君はここで何を?」
「その…家事など家のことを」
「彼らとはどうやって知り合った?どういう…」
「おいてめえ」

リヴァイの低い声が、金髪男の言葉を遮った。
彼は首だけでリヴァイの方を振り返る。

「これ以上そいつに根掘り葉掘り聞くな。そいつは俺らの仲間だ。それだけで十分だろ」
「……なにか特別な事情がありそうだな」
「そんなことはてめえに関係ない。目的は俺達を調査兵団に入れることのはずだ」
「ふっ…まあ、その通りだ」

眉間に皺を寄せ、鋭い眼で睨むリヴァイに対し、金髪男は美しい青の瞳を冷ややかに細めた。
一度瞬きをしてnameに向き直ると、彼女に右手を差し出した。

「申し遅れたね。私の名はエルヴィン・スミス。調査兵団の分隊長をしている」
「あっ…name・fam_nameといいます」

nameが握手に応じると、エルヴィンは微笑んだ。
それまでとは違う紳士的な表情に少しほっとする。

「珍しい名だな」

ほっとしたのも束の間。
エルヴィンの何気ない指摘にどきりとした。

「突然だが、彼らには調査兵団に入団してもらうこととなった。君も彼らの仲間なら一緒に来たまえ」
「え…ええっ?な、それはどういう…?」
「おい」

戸惑うnameの耳に、もう一度リヴァイの低い声が届いた。

「事情は俺らから説明する」
「…彼女のことになると随分とムキになるんだな。特別な関係なのか?」
「それもてめえには関係ないことだ。これ以上お前から説明を受けるとnameも混乱する。わかったらその手をさっさと離せ」

リヴァイはさっきよりも眉間の皺を深くしてエルヴィンを凄んだ。
nameと握手を交わしているその手に、今にも噛みつきそうな勢いで。
エルヴィンは暫し考えたあと、nameの手を解放した。

「いいだろう。だが、妙な真似はするな」

エルヴィンが片手を上げると、制服を着た面々はリヴァイ達の手錠を外した。
手を解放されると、3人は一斉にnameに駆け寄った。

「name、驚かせちまってすまない」

申し訳なさそうにファーランは眉を下げた。
ただならぬ状況に動揺する心を、できるだけ落ち着かせながらnameは3人を見た。
泥だらけのリヴァイにハンカチを当てながら尋ねる。

「どういうことなの…?」
「name、これから説明することは全て事実で、もう決まったことだ。話を聞いたら、簡単に荷造りを済ませて一緒に来い」

リヴァイは頬を拭ってくれるアイラの手を掴むと、真剣な眼差しで彼女を覗き込んだ。
有無を言わさぬリヴァイの言葉に、ことの深刻さを悟ったnameは、深く頷いた。



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