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早く来てほしいような、来てほしくないような。
待ち望んでも、怖気づいても、3日後はあっという間にやってきた。

4人で夕飯を食べ終えるまではいつも通り。
nameはサンドイッチを丁寧に包むと、2人に手渡した。

「はい、お夜食ね」
「nameありがとう!」
「イザベル、それは夜食だからな。いま食うんじゃねえぞ」
「わーってるよ!ちゃんと夜中に食べるよ……多分」

聞こえないように小さく呟いたイザベルに、nameは思わず笑う。
心配しなくとも、彼女の包みには多めにサンドイッチを入れておいたから大丈夫。
それでもきっと、明日の朝には腹の虫を鳴かせて帰ってくるのだろう。

リヴァイは、椅子の背もたれに片肘を掛けてイザベルを見上げる。
今回の仕事は危険性が低いとはいえ、やはり彼女への心配はあるようで。

「運搬作業を見ているだけだが、仕事の重要性は変わらねえ。イザベル…寝るなよ」
「寝ねえよ!……多分」

今度はしっかりと全員の耳に届いた。
ファーランとリヴァイは同時に額に手を当てて溜息をつく。
不安要素、大だ。

ファーランは仕方なさそうに笑って、イザベルの頭をくしゃりと撫でつける。
玄関の扉を開けると、振り返って笑った。

「行ってくる。明日の朝には戻るからな」
「うん、いってらっしゃい!」



02 ふたりきりの夜



2人を見送ったあと、nameとリヴァイはティータイムを楽しんでいた。
いざ2人になったらドギマギしてしまうのではと懸念していたname。
だが、香しい紅茶のお陰か、意外にもリラックスしてこの一時を過ごせていた。

ちらりとリヴァイを盗み見る。
独特の持ち方でカップを口に運ぶ彼はいつもの無表情だ。
ふと、彼の飲酒中の姿を思い出す。
グラスを持つリヴァイは、本来の持ち方をしていた。
ティーカップだけ違うのは、何かのこだわりだろうか?

nameの視線に気付いたリヴァイは、黒眼を彼女へ向けた。

「なんだ?」
「あ…えっと、そのティーカップの持ち方には何かこだわりがあるんですか?」
「…昔、初めて紅茶を飲もうとした時に取っ手がとれてな。それ以来、これのことは信用してねえ」
「ああ、なるほど」

これ、と指したのは勿論取っ手のこと。
あの持ち方は、嫌な思い出故の対策行為だったのだ。
それでも紅茶自体を嫌いにならなかったのは、余程彼の口に合ったからだろう。

「一緒に住んでもう随分経つのに、知りませんでした」
「別に大した話でもねえだろ」
「でも、大したことない話でも聞きたいです」

一緒に住んでいても、恋仲になっても、自分の知らない彼はまだまだいて。
少しずつでも、今よりは近づきたい。
せっかくの2人きりの時間なのだから、たくさん話をしたい。

「リヴァイさんの全てを知ることはできなくても、今よりは多くのことを知りたいです」

nameの言葉に、リヴァイは微かに眼を見張った。
そして、カップで口元を隠したまま視線を逸らす。

「まあ……俺もお前について知らないことは、まだまだあるからな」
「はい、たくさん知ってください!」

nameは嬉しそうに微笑んで頷いた。

「だがな、name。俺はお前ほど謙虚じゃねえ」
「?」

リヴァイは空になったカップをソーサーに置くと、肘をついて前屈みの姿勢になった。
そして、nameの顔を覗き込む。


「俺は、お前の全てを知りたい」


nameは、目を見開いて沈黙。
カップを持ったまま固まってしまった。

彼の真剣な眼差しに射抜かれる。
明らかに変わった場の雰囲気に戸惑いながら、何か言おうと口を動かすが、言葉は出てこない。
絡み合う視線が恥ずかしいのか、頬が染まっている。
やがて、nameは一度唇をきゅっと結ぶと、ゆっくりと口を開いた。

「た…たくさん、知ってください」

やっと発せた一言はさっきと同じ台詞。
もっと上手いことは言えないのかと、nameは内心で自分を叱った。

リヴァイは前屈みの姿勢を崩すと、椅子の背に凭れた。
そして、薄い唇が動く。


「name、風呂入ってこいよ」
「………え?」


nameは再び固まる。
今度は思考も止まってしまった。
そして、とても単純な疑問が頭に浮かぶ。
どうしてこの流れで風呂?と。

そんな彼女を追い込むように、リヴァイは更に一言投げかける。


「それとも、一緒に入るか?」
「!!!」


不敵に口角を上げたリヴァイは、自身のシャツの釦を一つ外した。
nameはそれ以上は色付かないであろう程に顔を真っ赤にして、見開いた瞳の中心で黒目を揺らした。

「わ、私っ洗い物があるので、リヴァイさん先にどうぞっ…!」

慌ただしい音を響かせながら椅子から立ち上がる。
声が裏返ってしまった。
そして、リヴァイの発する妖艶な雰囲気から逃げるように食器を片付け始めた。

「わかった」

そう短く返事をし、彼は呆気なく、漂わせる雰囲気を引っ込めた。
一度自室へ戻って着替えを取ってくると、すぐに脱衣場へと入って行った。

nameはカップを泡立てる手を止めて、息を吐いた。
どきどきと高鳴っている心臓は、まだ収まってくれそうにない。

さっきの釦を外すリヴァイの姿が頭から離れない。
とても、色っぽい仕草だった。

泡を洗い流し始めれば、水の冷たさが心地よく感じられた。



***



リヴァイが自室へ戻ったあと、交代でnameもシャワーを浴びた。
濡れた髪を乾かすのもそこそこに、寝間着を纏う。
脱衣場から出ると、リビングの灯は消えていた。

ゆっくりとした足取りで2階へと上がる。
一段一段を踏む音が、妙に大きく聞こえた。

しかし、2階の廊下は無人。
nameは思わず、ほうっと息を吐いた。

(さっきはびっくりしたけど…いつも通りなのかな)

それならそれで、いいのかもしれない。
そう思い始めながら、自室の扉を開けようとした。

同時に、隣の部屋からリヴァイが顔を出した。
眼が合った彼は、少々呆れた表情をしている。
庭矢にnameへ近寄ると、ノブに添えられていた彼女の手を掴んだ。


「今日はそっちじゃねえだろ」


そう言ってやや強引に彼女を引っ張ると、自室へ押し込んだ。
扉の閉まる音に、nameの体が強ばる。
リヴァイが手を伸ばせば、彼女は少し後ずさった。


「name」


伸ばされたリヴァイの手が扉に付き、nameは腕の隙間に閉じ込められる。
息遣いが間近で感じられて、心臓がどんどん煩くなっていく。
揺れる灰色の眼に魅せられていると、彼の髪もまだ濡れていることに気づいた。
同じ石鹸の香りが互いの鼻腔をくすぐる。

リヴァイはnameの濡れた髪を撫でると、ゆっくり顔を近づけ、唇を落とした。
風呂上がりの、すべすべとした唇が触れ合う。
何度も角度を変えながら唇を食むと、心地よい刺激に彼女の力が抜けていく。

扉に凭れているnameの肩を掴み、自分の方へ引き寄せて抱きしめた。
体が密着したことで、体が更に熱くなったのを彼らは互いに感じた。
リヴァイはnameとのキスを続けながらベッドに近づき、なだれ込むように一緒に倒れた。

組み敷いたnameを見下ろす。
目が合った彼女は頬を染め、瞳は潤んで揺れていた。


(もう、今日こそ止められそうにねえ)


これまではnameの気持ちを考えて、この先に進むことができなかった。
だが、それも今日で終わりだ。

自身の昂りのままに、リヴァイは彼女のワンピースの裾を捲りあげた。
それに反応したnameが静止させるようにリヴァイの手を掴む。

「ま、待ってリヴァイさん…!」

けれど、その抵抗は弱々しい。
リヴァイは逆に彼女の手首を掴むと、そっとベッドに押し付けた。

「お前は、こうなることを期待していなかったのか?」

熱っぽい光を眼に宿らせながら、リヴァイは微かに口角を上げる。
nameは耳まで真っ赤染めて、顔を横に背けた。
ちらりと見えた、可愛らしい彼女の耳に唇を寄せて囁く。


「俺はしていた」


ぞくぞくとした感覚が背を駆け上がり、nameはぴくっと肩を震わせた。

煩い自分の心音を感じながら、自身に問いかける。
期待していなかった?
それを否定したら、嘘になる。
だって、3日前から意識していた。
彼との進展を、私も望んでいた。


本当は、ずっとこうなりたいと思っていた。


リヴァイは身を屈め、顔を寄せる。
唇が触れる寸前、nameは小さく呟いた。


「私も」


消え入りそうなその言葉はしっかりとリヴァイの耳に届き、彼の胸の内を熱くさせた。
優しく唇を落とすと、キスを深いものに変えながらnameと指を絡めた。

2人きりの夜は、始まったばかり。



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